最新記事

量子コンピューター

グーグル「シカモア」、中国「九章」 量子コンピューターの最前線を追う

A QUANTUM LEAP

2021年2月13日(土)17時35分
フレッド・グタール(本誌サイエンス担当)

しかし、マーティニスは過剰な楽観論を抱いてはいない。現在進行中の十数件のプロジェクトのうち「うまくいくのは、せいぜい1件か2件」だと予想している。「量子コンピューターを作るのは本当に難しい。一般のイメージ以上に難しい」

量子コンピューターを作るには、莫大な資金が必要だ。グーグルの量子コンピューター部門を率いるハートマット・ネブンが2020年1月に戦略国際問題研究所(CSIS)で行った講演によると、エラー訂正ができる量子コンピューターを作るためには30億ドル以上かかるという。

現時点でグーグルはプロジェクトをやり遂げると約束しているが、会社の方針が変わって、量子コンピューター開発の優先順位が下がれば、その約束が守られる保証はない。

そこで、アメリカが世界の先頭を走り続けるためには「政府が巨大な購買力を活用し、早期にリスクを伴う行動に踏み出した企業に報いる必要がある」と、ネブンは語った。

別の暗号システムの追求も

「九章」には不十分な点も多いが、このプロジェクトにより、中国の強力なイノベーション能力が実証されたことは間違いない。

ネブンはこう述べている。「私たちが恐れているのは......開発競争でアメリカが未知の中国企業に敗れることだ。中国は、戦略的に重要と見なした分野に途方もない資源を投入できる」

中国の野心が膨らむ一方で、アメリカの意欲が減退したように見えると、CNASのエルサ・カニア上級研究員は言う。

「市場に全てを委ねておけば十分で、政府が首を突っ込む必要はない、という発想が根を張り、それがイデオロギーのようになっている。科学や教育に投資することへの反発も強い。本来は、たとえ中国が量子科学の研究を推進していなくても、アメリカは基礎科学にもっと投資して......未来の人材を育成しなくてはならない」

アメリカで量子コンピューター研究にどのくらいの資金が投じられているかは、はっきり分からない。研究開発支出に占める政府の割合は以前より低下しているが、「民間部門を含めれば、アメリカの研究開発支出は世界のどの国よりも多い」と、CSISの国防予算分析部門の責任者トッド・ハリソンは言う。

ただし、民間企業の研究に基礎研究はあまり含まれていない(長期的に見て最も大きな恩恵をもたらすのは、しばしば基礎研究なのだが)。

結局、量子コンピューター研究でも、軍が中心的な役割を担うことになるのかもしれない。軍は、これまでもインターネットなどの画期的なテクノロジーを生み出してきた。

機密扱いではない研究開発への軍の資金拠出はおおむね減っていないと、ハリソンは言う。国防総省はそのほかに、機密扱いの量子コンピューター研究にも資金を投じている可能性が高い。

ワシントン・ポスト紙は、元国家安全保障局(NSA)職員のエドワード・スノーデンによる内部告発に基づいて、NSAが「暗号面で有益な量子コンピューター」の開発に約8000万ドルを費やしていると報じている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

新型ミサイルのウクライナ攻撃、西側への警告とロシア

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

米共和党の州知事、州投資機関に中国資産の早期売却命

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 サハリン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 10
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中