最新記事

量子コンピューター

グーグル「シカモア」、中国「九章」 量子コンピューターの最前線を追う

A QUANTUM LEAP

2021年2月13日(土)17時35分
フレッド・グタール(本誌サイエンス担当)

magSR20210213aquantumleap-3.jpg

「九章」を開発した中国科学技術大学の潘建偉 DICKSON LEE-SOUTH CHINA MORNING POST/GETTY IMAGES

「10年で実現したら驚き」

グーグルもUSTCも、アーロンソンのアプローチを採用した。特に潘建偉らが開発した「九章」は、ボソン(ボース粒子)の一種である光子を量子ビットとして使用する「ボソン・サンプリング」専用マシンだ。

彼らは光子のレーザービームを鏡やその他の障害物のコースに送り、あちこちに跳ね返らせた。

実験の目的はさまざまなタスクを実行可能な汎用コンピューターを作ることではない。ただ1つのタスク――光子が障害物コースを移動するときにどう振る舞うかを、光子で作られたコンピューターで演算することだった。

USTCの実験が、このような同語反復的な説明では捉え切れない成果を上げたのは確かだ。彼らは光子を制御できること、それを演算に利用できることを実証した。

それでも量子技術者の間には、このような限定的目的のために作られた「九章」に批判的な意見もある。古典コンピューターでも同じ結果が妥当な時間で得られることを示そうとしている技術者もいる。

「USTCグループが量子超越性を達成したのかどうか、どのような意味で達成したのか、議論はしばらく続きそうだ」と、アーロンソンは指摘した。

magSR20210213aquantumleap-6.jpg

IBMの量子コンピューター MISHA FRIEDMAN/GETTY IMAGES

グーグルの「シカモア」も大きなニュースになったが、やはり技術者の間では批判の声が出ている。独自の量子コンピューターを開発しているIBMの技術者は、スーパーコンピューターに膨大な量のメモリを搭載すれば、理論的には「シカモア」と同様の演算が可能だと主張した。

IBMリサーチの副所長で数学者のロバート・スートルはこう批判する。「『われわれはたった2秒でできたが、出来損ないのスーパーコンピューターなら1万年はかかるだろう』と、彼らは言った。なぜスーパーコンピューターの機能の一部を使わないでおいて、自分たちは素晴らしいと主張するのか」

多くの技術者は量子超越性の実証を、重要な成果というより1つの通過点と考えている。「シカモア」と「九章」は印象的な結果を出したが、実用には程遠い。

「量子超越性が完全に達成されたとは思わない」と、アーロンソンは言う。「まだ問題がいくつかある。(だが)その答えは簡単に見つけられるだろう」

量子コンピューターで興味深いことを実行するためには、マシンにエラー訂正機能を持たせ、量子ビットの集積度を飛躍的に向上させなくてはならない。このテクノロジーがまず実用化されるのは、量子化学シミュレーションなどの領域だろう(もしそれが実現すれば、新薬開発への恩恵は計り知れない)。

「量子コンピューターが進化する過程で、やがてショアのアルゴリズムで暗号を破れる時が来るだろうが」と、アーロンソンは言う。「万一、向こう10年の間に実現するとすれば、驚きだ」

「シカモア」のデモを行った後、マーティニスはグーグルを去った。古い知人であるミシェル・シモンズがシドニーに設立した新興企業シリコン・クオンタム・コンピューティングに移籍したのだ。

同社は、シリコンとリンで量子ビットを作ろうとしている。シモンズによると、これらの材料を用いれば、ほかの材料を用いるよりも概して安定性が高く、エラー訂正の必要性が小さくなると期待される。

その上、これまでより高温の環境でも量子ビットを動作させられるので、IBMやグーグルのような超低温の環境をつくらずに済む。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イラン交渉団、パキスタン首相と個別に会談 和平

ワールド

バンス米副大統領、パキスタンのシャリフ首相と会談

ワールド

米が資産凍結解除に同意とイラン筋、米当局者は否定

ワールド

ガザ平和評議会、資金不足報道否定 「要請全額満たさ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国防軍は崩壊寸前」
  • 4
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 5
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 6
    健康を守るはずのサプリが癌細胞を助ける? 思いがけ…
  • 7
    目のやり場に困る...元アイスホッケー女性選手の「密…
  • 8
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 9
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 10
    中国が恐れる「経済ドミノ」
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 7
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 8
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 9
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 10
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中