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量子コンピューターハッキング不可能な量子インターネットのつくり方
CREATING THE QUANTUM INTERNET
量子インターネットハブを調整する筆者 Soeren Wengerowsky
<量子通信の概念は既に実現されているが、いわばトランシーバーのようなもので、一般向けには実用化されていない。筆者は既存の電気通信インフラを使って、量子インターネットの概念を実用レベルに引き上げる方法を発表した>
(本誌「いま知っておきたい 量子コンピューター」特集より)
在宅勤務が増えたことから、インターネットで情報をやりとりするリスクが以前より認識されるようになってきた。だが、メッセージの傍受やハッキングを完全に遮断するのは難しい。
必要なのは新しいタイプのインターネット──そこで期待されているのが、量子インターネットだ。データの機密性を守るプライベート接続のこのネットワークなら、情報を傍受される心配はない。
筆者は先頃、同僚たちと共に行った研究を科学専門誌サイエンス・アドバンシズに発表した。既存の電気通信インフラを使って、量子インターネットの概念を実用レベルに引き上げる方法を記した。
現在、オンラインデータの暗号はデジタルの「鍵」がないと解けない。しかし十分な時間と性能の高いコンピューターがあれば、暗号は破ることができる。
量子通信の場合には、光の粒子(光子)を使って鍵がつくられる。量子物理学の原理によれば、この鍵と全く同じコピーをつくることはできず、暗号化されたメッセージは読めない。
この量子通信の概念は既に実現されており、国家間での機密情報のやりとりなどに使われている。しかし費用がかさむ上に専門的な技術が必要なため、一般向けには実用化されていない。
過去の量子通信技術は、いわばトランシーバーのようなものだ。安全なやりとりをするには、1人の相手について1つのデバイスを持つ必要があった。3人の間で交信する場合には、3組=6個のデバイスが必要だった。
この段階では、個々のデバイスが鍵を共有する必要があるため、送信機と受信機の両方の役割を果たしている。だが私たちのモデルでは、中央の送信機からデバイスに光子を送って鍵をつくる。だから、ユーザーの手元にはデバイスが1つあれば済むことになる。
これを可能にするのが、量子物理学の重要な原理である「もつれ」だ。光子をもう1つの光子と絡ませ、離れた場所にあっても測定上は同一の動きをさせる仕組みのことをいう。
2人のユーザー間で通信する場合、送信機から2人に「もつれ」状態にある1対の光子が送信される。ユーザーの端末はこれらの光子から、それぞれ1つの鍵を作成する。2人はそれを使ってメッセージを暗号化し、安全にやりとりができる。
さらに私たちの新しいモデルでは、信号の結合や分離を行う一般的な通信技術の「多重化」を活用することで、もつれ状態にある光子のペアを一度に複数の組み合わせの人に送信できる。各ユーザーに多くの信号を同時解読できる方法で送信することもできる。
こうしてトランシーバーを、複数が参加するビデオ通話に近いシステムに置き換えられる。
この概念については、サンプルは少ないながらもテストを進めている。通信速度の改善や、複数のネットワークの相互接続を実現するための取り組みを行っているところだ。
今後数年で経済界のパートナーと共に、さらに優れた量子ネットワークの開発を目指したい。
(筆者の研究は、英国家量子技術プログラムおよびEPSRC量子通信ハブの支援を受けている)
Siddarth Koduru Joshi, Research Fellow in Quantum Communication, University of Bristol
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
<2021年2月16日号「いま知っておきたい 量子コンピューター」特集より>