デジタル化は雇用を奪うのか、雇用を生むのか──「プロトタイプシティ」対談から
高口 テクノロジーによる雇用減少については、先進国と新興国ではまったく捉(とら)え方が違います。先進国では機械との競争の結果、安定した正規雇用が失われていく点がフォーカスされています。ジェームズ・ブラッドワース『アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した 潜入・最低賃金労働の現場』(濱野大道訳、光文社、二〇一九年)がその典型でしょう。企業は熟練労働者を必要とせず、アルゴリズムで管理することによって、短期契約の労働者でも十分なパフォーマンスを得られるようになる。しかも、そのような働き方が自由であり、自己決定権があると欺瞞(ぎまん)的な宣伝をすることによって労働者をも欺いている、という内容です。
一方で、新興国ではアマゾン的ウーバー的な職種はもともと正規雇用ではなく、不安定な雇用形態であり、いわゆるインフォーマル経済に属するものでした。以前から、社会保障も長期雇用もなかったため、待遇悪化という不満は出てこない。むしろ、アマゾン的ウーバー的なものであれ、新たな雇用需要を生み出したことにより、労働市場が逼迫(ひっぱく)し、賃金は増加傾向にあることも見逃せません。本書の執筆者の一人である藤岡淳一によると、アマゾン的ウーバー的な雇用は工場より圧倒的に賃金が高く、工場は労働者の確保がより難しくなっています。
我々の身近なところでは、日本のコンビニや居酒屋で働く中国人学生アルバイトが減っていることがあげられます。中国が豊かになり、十分な仕送りをもらえる学生が増えたこともありますが、個人輸入代行のソーシャルバイヤーなど、デジタル化によって生まれた新たな仕事のほうがよっぽど割がいい。
たとえば、微店(ウエイデイエン)というサービスがあります。中国SNS最大手のウィーチャット上に個人のネットショップを開設できるサービスですが、在日中国人の開設数は、なんと四五万店舗に達していると発表しています。開店休業状態のユーザーがほとんどでしょうが、アルバイトや副業として個人輸入代行をサポートする人が、万単位、一〇万単位で存在するわけです。
伊藤 おっしゃるとおり、デジタル化が生み出す雇用創出については、まだまったく評価が定まっていません。不安定な雇用を増やしているだけという批判もあれば、不安定だろうがなんだろうが雇用は雇用だ、という反論もあるなかで、評価が定まるのはまだ先の話でしょう。デジタルな雇用がいかに社会保障の対象となるようなフォーマルな雇用になりえるのか、議論が必要です。
ジュネーブ高等国際問題・開発研究所のリチャード・ボールドウィン教授は、著書『世界経済 大いなる収斂 ITがもたらす新次元のグローバリゼーション』(遠藤真美訳、日本経済新聞出版、二〇一八年)において、一九九〇年代以降の情報技術が進んだ時代を「ニュー・グローバリゼーション」と名付け、新興国経済の底上げにつながると指摘しています。
ただし、デジタル化が果たして工業化に匹敵するほどの雇用創出効果を持つのかなどは未知数です。