デジタル化は雇用を奪うのか、雇用を生むのか──「プロトタイプシティ」対談から
山形 その意味で、押さえるべきは新興国の発展が何に由来しているのか、です。デジタルが強みになっているという見方がある一方で、新興国の発展はより現実的、物質的な基盤によって担われているという見方も強固です。中国にせよ、最近ではイノベーティブな側面に注目が集まるようになってきましたが、主流の見方は、労働力移転が成長の原動力というものではないでしょうか。
中国発のイノベーションが注目を集めていますが、その経済成長は内陸から沿岸部へ、農村から都市へという、労働力移転でだいたい説明ができる。これは、二〇年前から言われてきた話です。中国の都市化率はそろそろ六〇%に達しようとしていて、先進国とほぼ同水準になります。つまり、経済成長の源泉であった労働力移転はそろそろ打ち止めなので、飛躍的な成長もそろそろ終わるだろう。このような議論もあります。
伊藤 いわゆるルイスの転換点ですね。工業化の進展に伴い、農業セクターの余剰労働力が都市に移転していく。都市人口の生み出す付加価値は農村よりも高いので、農村から都市へという労働力移転が進むだけで経済は成長するが、農業セクターの余剰労働力が底をつく時期、すなわちルイスの転換点を超えてしまえば、実質賃金を引き上げなければ雇用できなくなる、というものです。
実際に、中国では一九七八年の改革開放から一貫して農業従事者比率の減少が続いています。この間、労働力移転が経済発展のエンジンであったことは疑いようのない事実です。
ただし、リーマンショック後には異なる動きが生まれています。まず、工業セクターよりもサービスセクターのほうが大きくなっていくこと。ポスト工業化の時代を迎えたわけです。さらに、内陸部の開発も進み、はるばる沿海部まで出稼ぎに行きたくない、と故郷に近い場所に帰還する動きも出ています。かつて、アイフォーンは深圳で作られていましたが、今では四川(スーチヨワン)省や河南(ホーナン)省など、内陸部に製造拠点が移行したのはこのためです。
たんなる労働力移転を超えた成長の形、新興国から非連続的価値創造が生まれるプロトタイプシティの時代は、少なくとも深圳では実現しているわけです。
※抜粋後編「コロナ後、深圳の次にくるメガシティはどこか」はこちら。
『プロトタイプシティ
――深圳と世界的イノベーション』
高須正和・高口康太 編著
KADOKAWA
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