最新記事

深圳イノベーション

デジタル化は雇用を奪うのか、雇用を生むのか──「プロトタイプシティ」対談から

2020年8月13日(木)06時55分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

山形 その意味で、押さえるべきは新興国の発展が何に由来しているのか、です。デジタルが強みになっているという見方がある一方で、新興国の発展はより現実的、物質的な基盤によって担われているという見方も強固です。中国にせよ、最近ではイノベーティブな側面に注目が集まるようになってきましたが、主流の見方は、労働力移転が成長の原動力というものではないでしょうか。

中国発のイノベーションが注目を集めていますが、その経済成長は内陸から沿岸部へ、農村から都市へという、労働力移転でだいたい説明ができる。これは、二〇年前から言われてきた話です。中国の都市化率はそろそろ六〇%に達しようとしていて、先進国とほぼ同水準になります。つまり、経済成長の源泉であった労働力移転はそろそろ打ち止めなので、飛躍的な成長もそろそろ終わるだろう。このような議論もあります。

伊藤 いわゆるルイスの転換点ですね。工業化の進展に伴い、農業セクターの余剰労働力が都市に移転していく。都市人口の生み出す付加価値は農村よりも高いので、農村から都市へという労働力移転が進むだけで経済は成長するが、農業セクターの余剰労働力が底をつく時期、すなわちルイスの転換点を超えてしまえば、実質賃金を引き上げなければ雇用できなくなる、というものです。

実際に、中国では一九七八年の改革開放から一貫して農業従事者比率の減少が続いています。この間、労働力移転が経済発展のエンジンであったことは疑いようのない事実です。

ただし、リーマンショック後には異なる動きが生まれています。まず、工業セクターよりもサービスセクターのほうが大きくなっていくこと。ポスト工業化の時代を迎えたわけです。さらに、内陸部の開発も進み、はるばる沿海部まで出稼ぎに行きたくない、と故郷に近い場所に帰還する動きも出ています。かつて、アイフォーンは深圳で作られていましたが、今では四川(スーチヨワン)省や河南(ホーナン)省など、内陸部に製造拠点が移行したのはこのためです。

たんなる労働力移転を超えた成長の形、新興国から非連続的価値創造が生まれるプロトタイプシティの時代は、少なくとも深圳では実現しているわけです。

※抜粋後編「コロナ後、深圳の次にくるメガシティはどこか」はこちら。


プロトタイプシティ
 ――深圳と世界的イノベーション
 高須正和・高口康太 編著
 KADOKAWA

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

2020081118issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
楽天ブックスに飛びます

2020年8月11日/18日号(8月4日発売)は「人生を変えた55冊」特集。「自粛」の夏休みは読書のチャンス。SFから古典、ビジネス書まで、11人が価値観を揺さぶられた5冊を紹介する。加藤シゲアキ/劉慈欣/ROLAND/エディー・ジョーンズ/壇蜜/ウスビ・サコ/中満泉ほか

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

9月の機械受注(船舶・電力を除く民需)は前月比4.

ビジネス

MSとエヌビディア、アンソロピックに最大計150億

ワールド

トランプ政権の移民処遇は「極めて無礼」、ローマ教皇

ワールド

スペイン、9.4億ドルのウクライナ支援表明 ゼレン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中