最新記事

テクノロジー

「PCはカウンター・カルチャーから生まれた」服部桂の考える、人間を拡張するテクノロジー

2019年12月19日(木)17時30分
Torus(トーラス)by ABEJA

服部)スチュアート・ブランドは、アメリカのカウンター・カルチャーの代名詞的存在です。彼は「宇宙船地球号」を唱えた思想家バックミンスター・フラーから強い影響を受け、「Access to Tools」(DIYの精神)というコンセプトのヒッピー向けカタログ雑誌「ホール・アース・カタログ」を作り、ヒッピーたちのコミューン暮らしに必要な道具や自然科学の知識の紹介まで、幅広い情報を載せました。1968年の創刊号の表紙には宇宙に浮かぶ地球全体の写真が載りましたが、それはアポロ宇宙船が撮った人類がいままで実際に見たことのない丸い地球の姿で、NASAにこの写真の公開を求める運動まで起こして手に入れたものです。国境や冷戦も関係ない美しい青い星の姿は「ザ・ブルー・マーブル」(青いビー玉)と呼ばれ、新しい世代のグローバルな意識を象徴するもので、環境問題への意識を喚起し、インターネットによる一つの世界観の誕生をも予感させるものでした。

「ホール・アース・カタログ」は様々な影響を当時の若者たちに与えましたが、新しいコンピューター開発の分野も例外ではありませんでした。


スチュアート・ブランドは、「すべてヒッピーのおかげ」というエッセイの中で「カウンター・カルチャーが中央の権威に対して持つ軽蔑が、リーダーのいないインターネットばかりか、すべてのパーソナル・コンピューター革命の哲学的な基礎となった」と書いている。(ジョン・マルコフ著・服部桂訳『パソコン創世第三の神話』)

パーソナル・コンピューターは、権威への対抗から生まれた

Torus_Hattori1.jpg

服部)第二次世界大戦の最中、米陸軍が弾道計算を目的に「エニアック」(ENIAC)という世界初とも言われる電子式コンピューターを開発していました。それが終戦後に、民間でも給与計算などに使われるようになったものの、あくまで大企業や軍のための中央制御の大型計算機でした。言い換えれば「権威」の象徴で、その周縁になにも持たない「個人」がいるという使われ方だったんですね。 ところがこの「権威」としてのコンピューターが批判されるようになった。


コンピューターは50年代から、大きくて、中央集権的で官僚的な象徴的存在として、批判の対象になってきた。「機械の神話」や「権力のペンタゴン」を書いたルイス・マンフォードは、電子コンピューターは人間の自由と逆のものだと断言し、超人間的な機械を作っているコンピューター技術者を公然と非難した。(ジョン・マルコフ著・服部桂訳『パソコン創世「第三の神話」』)

服部)60年代のアメリカの若者は、ベトナム戦争に派遣されて戦地で死ぬ者もいたし、反戦運動に身を投じたり、ロックやアート、ドラッグに走ったりする者もいた。中には徴兵が免除されるという理由だけで、国防総省や大学などの研究機関で戦争関連の業務や研究に従事する者もいました。そのため、体制や権力、大企業や官僚主義を支える象徴としての「大型コンピューター」に、批判的なまなざしを向ける研究者も少なくなく、学生が大学のコンピューターセンターを占拠するデモなども起きました。その中から、支配者側にあるのではなく、もっと人の近くにあって個人を中心にして利用者本人の能力を引き出せるようなコンピューターを持ちたい、という考えが生まれてきたのです。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 6

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中