母親代行テクノロジーに家事はお任せ!
成長する家事代行サービス市場。便利さを知ってしまった人々は究極の「ロボットママ」を求めるのか
スーパーママ 1台の家政婦ロボットにすべてお任せではなく、ネットやソーシャルメディアを活用した仕組みがバーチャルなロボットママを生み出す HYPE PHOTOGRAPHY-GETTY IMAGES
50年前に約束されていたゆとりある未来を手にして、誰もが今より幸せになれる。それが「ママ代行エコシステム」だ。
あと10年もすれば、仕事以外はすべて余暇の時間になるかもしれない。各種の代行サービスが発達して、家事をすべて自分でこなす必要はなくなり(母親にしてもらう必要もなくなり)、気軽に外注できるようになるだろう。
さまざまな家事とそれを引き受ける人をマッチングさせる家事代行サービスの「タスクラビット」。オンデマンドで洗濯を依頼できる「ワシオ」。スーツケースの荷造りから旅先への配送、回収、服の洗濯、保管までお任せの「ダフル」。こうした代行サービスのスタートアップ企業は、ベンチャー投資から巨額の資金を調達している。
15年5月、あるエンジニアが投稿したツイートが話題になった。「OH(聞いた話、の意味):サンフランシスコのテクノロジー文化が取り組む問題はただ1つ。母さんがボクのためにやってくれなくなったことは、どうすればいいの?」
多くの人が、この言葉をテクノロジー文化への批判と受け止めた。世の中には地球温暖化や貧困、肥満など重要な問題があるというのに、20代の起業家はその並外れた才能を費やして、カネを持て余している生意気な20代のために「母親の代わり」を開発しているのか──。
ウィン・ウィンの方程式
しかし、彼らの取り組みを、省力化という長期的な視点で捉えることもできる。50年代と60年代は、電化と機械化が戦後の好景気と重なり、人々は日常の単純な仕事から解放されるという新しい未来を描き始めた。洗濯機や食器洗浄機、掃除機、電動工具、電子レンジなどが普及。たらいで洗濯物をすすぐなど、ずっと人の手でこなしてきた家事や作業が突然、平均的な日常生活から姿を消した。
人々は胸を躍らせた。これほど多くのことがこれほど急速に機械化されれば、もう後戻りはしないはずだ。30世紀を舞台にしたアニメ『宇宙家族ジェットソンズ』の家政婦ロボット「ロージー」も、近いうちに実現しそうに思えた。
しかし、テクノロジーは行き詰まった。この半世紀、機械化は日常の雑用をどれだけ楽にしてくれただろうか。ロボット掃除機のルンバやネコ用全自動トイレは身近な製品になったが、GPSで動く全自動芝刈りロボットはまだ大量生産に至っていない(現代の技術があれば簡単そうな気もするが)。
一方で、今日のソーシャルメディア社会のつながりとソフトウエアは、家事をこなす機械を作る代わりに、私たちが効率的に互いの家事をし合う巨大なシステムを築いている。
自分が得意な作業は人の分まで請け負い、嫌いな家事や苦手なことはやらなくていい。このようなシステムがすべての人の未来を明るくする理由は、一般的な経済理論で説明できる。すなわち、19世紀の経済学者デービッド・リカードが提唱した比較優位だ。