「自分にできることを...」JICA職員・林 研吾さんが蟹江研究室で培ったSDGsの視点
──蟹江研究室での経験は現在のお仕事にどのように役立っていますか?
特に2つの点で非常に役立っています。一点目は、複合的な視点についてです。蟹江先生は、「物事を一つの視点だけで見るのではなく、複雑な問題を多角的に捉えることの重要性」をよく話されていました。SDGsの取り組みでは、一つの分野に良い影響を与える活動だったとしても、他の分野に悪影響を及ぼす可能性を考慮する必要があります。この複合的な視点を持つことが、現在のプロジェクト企画・実施において重要になっています。
二点目は、アプローチについてです。相乗効果(シナジー効果)を意識しながらプロジェクトを作り上げるアプローチを学んだことも大きな財産です。こうした視点や方法論を活用することは仕事をする上で役立っています。
──JICAに勤められた理由は?
JICAでは、相手国のために、現場意識を常に持ち、その国の人々に寄り添いながら、開発課題の解決に向け、相手国と一緒になって取り組み、国創りに携わることができます。OB訪問で何名かの職員の方にお会いしたところ、どの方も途上国への熱き想いを持って仕事に取り組んでいらっしゃいました。その姿に強い刺激を受け、「自分も途上国に対して熱き想いを持ったJICAの職員の方々と一緒に、仕事を通じて途上国に貢献したい」と思うようになり、JICAで働きたいと考えた大きな理由です。
また、JICAは、現場から国レベルの政府まで様々な関係者とともに開発課題の解決に向けて取り組みます。途上国の開発課題の解決は一筋縄にいかないからこそ、あらゆる視点を理解しながら取り組んでいくことが重要です。そのアプローチができる点もJICAに強く惹かれた点の一つです。
最後に、やはり内戦中のスリランカで幼少期に過ごしたことは仕事を選ぶ上で影響の大きかった私のバックグラウンドです。いつか途上国の開発に携わりたいという想いを持っており、父の憧れでもあったJICAで働きたいと考えてJICAで働くことを希望しました。
──特に心に残っている取り組みは?
いくつかありますが、特に印象深いのはモンゴルでの教育支援です。モンゴルでは約20年前から教育事業を展開しており、10年ほど前には「授業研究(レッスンスタディ)」のプロジェクトが終了しました。私はそのプロジェクト自体には携わっていませんが、その後の状況を把握するためにプロジェクト終了から10年後にフォローアップ調査を行いました。
その調査で明らかになったことは、プロジェクト終了後に、プロジェクトに携わった現地の方が自らNGOを立ち上げ、全国規模の授業研究大会を開催していたことです。そこでは現場の先生方が集まり、「授業研究をどのように進めるべきか」について意見交換をし、実際にどのように取り組んでいるかを発表しておりました。また、モンゴルの先生方は、「WALS」と呼ばれる世界授業研究学会で研究発表を行ったり、日本に自費で研修に来たりするなど、積極的に活動を続けていました。さらに、日本の大学と共同研究を進めるなど、プロジェクトの成果を次につなげる取り組みも進行していました。
特に印象に残ったのは、あるモンゴルの先生が「プロジェクトが終わった瞬間が、日本との新たな繋がりの第一歩だった」と語ったことです。支援が終わりではなく、その後の発展に向けて、日本との繋がりを大切にしている姿勢に感銘を受けました。このフォローアップ調査を通じて、そうした事実を今後の事業に繋がる成果として明らかにできたことともに、モンゴル側の日本とのつながりを大事にする姿勢を見て、日本・JICAの支援の意義を再認識しました。
また、現在、勤務しているパプアニューギニアでも印象に残っている事業があります。それは理数科の教科書開発です。パプアニューギニアは理数科の教科書が開発されるまで、国定教科書がありませんでした。加えて、パプアニューギニアは電化率が約20%となっており、道路もなかなか整備されていないという状況です。特に地方部では、学校に通うために山を越えていたり、水を汲むまでに2時間かかったりという地理的にもかなり厳しい状況です。
その中で、JICAの事業を通じて、理数科の教科書が開発され、パプアニューギニア全土で教科書が配布されています。地方部や山間部の学校に訪れた際、教科書が活用されている光景と、生徒が「授業でたくさんのことを学べて楽しい」と言って教科書を大事に使っている姿に支援のインパクトを感じました。
教科書を効果的に教員に使っていただくためには、教員が教科書の使い方を正しく理解する必要があり、現実としてはなかなか容易ではなく、大きな課題の一つです。一方で、教育省や現地の教員に加えて、世界銀行やユニセフ、Australian High Comission等と協議も重ねていきながら、課題解決に向けて取り組んでいます。このように、それぞれの組織の特徴や強みを生かしながら、あらゆる機関が一体となって課題解決を図っていくことも大きなやりがいとして強く感じております。