投融資で脱炭素社会を実現するために...日本生命が推進する「トランジション・ファイナンス」とは?
責任投融資の全体像
<持続可能な社会の実現に向け、日本生命は「トランジション・ファイナンス実践要領」を策定。企業の脱炭素化を資金面で支援する仕組みを整えた>
世界を変えるには、ニュースになるような大規模なプロジェクトや商品だけでは不十分。日本企業のたとえ小さなSDGsであっても、それが広く伝われば、共感を生み、新たなアイデアにつながり、社会課題の解決に近づいていく──。この考えに基づいてニューズウィーク日本版は昨年に「SDGsアワード」を立ち上げ、今年で2年目を迎えました。その一環として、日本企業によるSDGsの取り組みを積極的に情報発信していきます。
地球温暖化から「地球沸騰化」とも言われるまでに事態が進行し、脱炭素社会の実現が強く求められる中、現行の社会システムから段階的に移行(トランジション)していくことが、世界的な課題となっている。
「トランジション」は金融においても必要だ。脱炭素への取り組みを加速させるには、そこに資金が供給されるようにしなければならない。しかし、トランジションの定義は定まっておらず、企業は自身のトランジション適格性をどのように示すべきか、そして投資家はそれをどう判断すべきか、不明確なままだった。
こうした課題に対し、トランジション・ファイナンス市場を健全に拡大していくために、日本生命保険相互会社が2024年6月に公表したのが「日本生命トランジション・ファイナンス実践要領」だ。
企業の脱炭素計画を評価し、投融資を促す
トランジション・ファイナンスは、既にグリーンな企業(温室効果ガスの排出量がゼロ、あるいは少ない企業)に資金提供するグリーン・ファイナンスとは異なり、電力・鉄鋼など現在は温室効果ガス排出量が多いものの脱炭素化に取り組んでいる企業の「移行」を支援することを目的とした資金供給の手法だ。
「日本生命トランジション・ファイナンス実践要領」においては、企業全体の温室効果ガス削減計画が、パリ協定の「1.5℃目標(※)」に対して、科学的に整合するかどうかを重視する。技術単体の可否ではなく、企業の長期計画・戦略性を評価することがポイントだ。
パリ協定の目標を達成するために、各企業は何をすべきなのか。日本生命は、IEA(国際エネルギー機関)などの国際機関が示すシナリオ等を基に、定量的なパリ協定と整合する経路(閾値)である「Parisパスウェイ」を設定している。
この「Parisパスウェイ」と、企業が提示する短期・中期・長期の温室効果ガス削減目標が整合的であるかどうかが、「日本生命トランジション・ファイナンス実践要領」の評価ポイントだ。
将来は不確実なのだから、投融資の償還期限に至るまで、進捗モニタリングと対話は欠かせない。脱炭素の取り組み以外で、自然環境や労働環境を損なわないことも、評価の観点となる。
※2016年に発効したパリ協定では、「世界の平均気温上昇を産業革命以前と比べて2度より十分低く保ち、1.5度以内に抑える努力をする」という目標が掲げられた。
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