「本当の森」を次世代へつなぐ住宅メーカーの挑戦、アイビックの「森のおくりもの」プロジェクトとは?
2024年4月、大分県国東市の山林で行われた植樹祭。小雨の降るあいにくの天気のなか、78人が参加
<「放置林」は生態系の崩壊や災害リスクの増加を招く。この問題に向き合うべく、株式会社アイビックは土地本来の植物を山林に植樹していくプロジェクトを始動させた。「本当の森」を次世代へつないでいくための取り組みとは>
世界を変えるには、ニュースになるような大規模なプロジェクトや商品だけでは不十分。日本企業のたとえ小さなSDGsであっても、それが広く伝われば、共感を生み、新たなアイデアにつながり、社会課題の解決に近づいていく──。この考えに基づいてニューズウィーク日本版は昨年に「SDGsアワード」を立ち上げ、今年で2年目を迎えました。その一環として、日本企業によるSDGsの取り組みを積極的に情報発信していきます。
国土の約7割を森林が占める日本。しかし、そのほとんどが「人の手が加わった森」であり、一度も伐採されていない原生林はごくわずかだ。
薪や炭用の木、肥料用の落ち葉などを採取してきた「里山」、神社を囲むように手入れされた「鎮守の森」、そして木材生産のためにスギやヒノキを植えた人工林。歴史上、日本人の暮らしは森林と密接に関係していた。
しかし近年、過疎化と林業の後継者不足により、管理されずに荒廃した「放置林」が増加している。そうした森林では地面にまで光が届かず、暗い森となり、生物多様性は失われ、土壌は痩せていく。豪雨の際に水を吸収しきれず、土砂災害が発生しやすくなっている。
多様な植樹で森の生態系を取り戻す
こうした現状に住宅メーカーとして危機感を持ったのが、大分県に本社を置く株式会社アイビックだ。身体にやさしく、安心・安全で快適な「素足(はだし)の住まい」を追求している同社は、地元の木材を積極的に活かしてきた。年間に使用する木材は約5000本にもなる。
そんなアイビックは2024年、植樹活動を通じて森を作り直すことを目指す、「森のおくりもの」プロジェクトをスタートした。放置林を、人と自然とが共存共栄するための里山と、人の管理を必要としない自然度の高い奥山へと整備していこうという取り組みだ。
4月に実施された第1回植樹祭には、大分県在住の顧客家族78人が参加し、20種類以上・500本の苗木が同県国東市の山林に植えられた。単一の苗を植えるのではなく、混植しているのは、自然に近い、健全な森に戻すためだ。
多種多様な植物を混植することで、地上だけでなく地下にも健全で強靭な根を巡らせる。これが森林の表層崩壊を防ぎ、水資源の確保や生物多様性の向上に寄与する。さらに、自然の複雑なつながりを体感してもらうことで次世代への環境教育にもなる。こうした「森のおくりもの」プロジェクトの包括的な考えは、林学博士の西野文貴氏が提唱する「里山ZERO BASE」の理念にもとづいている。