組み立て式で「エアレス」!? UEFA公式球も製造する日本企業が不思議なサッカーボールを作った理由
一方、これまでにも日本から支援の一環として、ボールや道具を途上国に寄付することはよくあった。寄贈するためのボールを安く大量に製造できないかという相談を引き受けることも多々あった。ただ、裾野にあるのは、現地でボールがパンクしたときに修理をすることが難しかったり、輸送するための梱包が嵩張りコスト増につながったりと、ボールを贈るだけでは解決しない問題だ。
そこで内田氏は、ただボールを贈るだけではなく、贈った先にいる子どもたちが成長するきっかけを届けること、そして環境に配慮した素材で「エアレス」なボールを開発し、その持続可能なボールを提供することという2つのコンセプトにたどり着く。モルテン社内でもこれまでにない挑戦的なプロジェクトの枠組みとして始まったという。
nendoが参画、組み立て式を採用した利点
企画の初期段階からデザインパートナーとして参画したのは、東京オリンピックの聖火台やフランス高速鉄道TGVの内装、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の「日本館」総合監修等で世界的な評価を得ている佐藤オオキ氏率いるデザインオフィス「nendo」。nendoから提案された複数のプロダクトデザインから、竹鞠やセパタクロー(ネットを挟み、足や頭を使ってボールを相手コートに返し合うスポーツ)のボールの構造に着想を得た、組み立て式の案を採用した。
デザイン案の構造を実現するエンジニアリングはもちろん、モルテンらしい使用感にもこだわり、大きく5段階くらいの開発ステップを経ながら、試作のプロトタイプは100パターン近くにも上ったそうだ。
nendoとの共同開発による組み立て式を実現したことでパーツのまま運ぶことが出来るため、結果的に輸送コストの削減にもつながった。また社員同士の対話からアイデアも膨らみ、燃やしたときに有害物質を発生させない不織布バッグを採用。イラストを主体にした説明書も再生紙にするなど、製品以外にも環境配慮を採用していった。
そして、学習塾「花まる学習会」代表の高濱正伸氏からアドバイスを得て、自らが考えながら組み立てることで、立体認識や空間認識力、論理的に考える力を自然と身につけることができる、教育的にも貢献できるサッカーボールというお墨付きももらえた。
モルテン全社のSDGs意識にも良い影響
「贈るだけではなくて、教育や成長を届ける」というこの新しいサッカーボールは現在、従来の一般販売の方式ではなく、企業による協賛支援のビジネスモデルをベースに着実に受注数を伸ばしている。