「名前覚えたからな。夜道、気をつけろ」 ゴネ得知る迷惑客がコールセンターで執拗に食い下がるワケ
これに対し、DランクやEランクのお客は、その月の20日ぐらいから電話がとまりはじめる。この人の場合は何度も利用停止になっているため、日にちがさらに1日早まったようだ。
「利用停止の日は機械が決めていまして、こちらではどうすることもできない(※13)んです」
※13:こちらではどうすることもできない......システム上の決めごとなので力になりたくても何もできない。お客もわかっているが、怒りの持っていき場がなくオペレーターに向かって怒るのかもしれない。
「それじゃあ機械をなんとかしろよ! こっちはこれまで20日だったから今月もそのつもりでいたんだよ! 19日だと電話を使えない日が1日増えるんだよ! 仕事で使ってるんだよ!」
お客の怒りをただ聞いているしかなかった。通話時間は30分が経過した。みんな昼休み(※14)に行ってしまい、グループで残っているのは私ひとりだ。通常はSVだけは残ってくれるが、日曜日の今日は2人いるSVの両方が運悪く休んでいて、もうひとつのグループのSVはどこにいるのか姿が見えない。ひとりでどうにかするしかなさそうだ。大声で怒鳴られ続けて耳が痛くなったので、ヘッドセットを耳からずらして、怒鳴り声を外に逃がすようにしていた。
※14:昼食は休憩室で食べるか、外に食べに出るかのどちらかだった。業者が300円の弁当を売りに来ており、私はそれを買って公園で食べることもあった。
わかってはいるんだけど...そして男は解約した
すると怒鳴り声がやみ、声の調子が変わった。
「あんたみたいに聞いてくれた人は初めてだよ」
ヘッドセットのずれを戻して聞いた。
「払わない俺が悪いんだけど、いつも頭ごなしに『できない、できない』って言われて、それで俺も腹が立って怒ってしまうんだよ。でも、あんたは違った。俺の話をちゃんと聞いてくれた」
ちゃんと聞いていたわけではなく、ヘッドセットをずらしていただけだが、どうやら信頼されてしまったようだ。
「またあんたと話できるか?」
「私もお話しさせてもらいたいんですが、指名を受けるということができません。今日お聞きした内容は記録にきちんと残させてもらいますので」
オペレーターにできることは、利用停止になる前に払ってくださいとお願いすることぐらいしかない。
「わかった。来月とまったら、また電話するわ」
どうせ払うなら、とまる前に払えないものだろうか。
一度頑張って期限内に払えば、支払いのサイクルが正常な形に戻る。そのサイクルを崩さないようにすれば利用停止にはならず、毎月怒って電話をかけてくるようなことにはならない。この人はオペレーターの話を聞くことができる。支払いも正常な形に戻せるはずだ。
翌月の19日。男のことが気になり、夕方になって電話が落ち着いたときを見計らい、データを呼び出し応対履歴を見てみた。オペレーターはお客との会話の内容を応対履歴に残さなければならないため、応対履歴を見れば、どのオペレーターが話をしたのかもわかる。男は予告したとおり電話してきていた。女性オペレーターが機械的な応対をしてすぐにSVに交代、SVが頑張るがさらに課長に代わり、課長はなんの話もできないまま通話を打ち切られていた。
さらにその次の月の19日。調べてみると男は電話を解約していた。
吉川 徹(よしかわ・とおる)
元コールセンター従業員
1967年新潟県生まれ。大学卒業後、JAの全国連合会に就職するも、過度なストレスで体調を崩し、退職。その後、派遣社員として、ドコモの携帯電話料金コールセンター、プラズマテレビのリコール受付、iDeCo(個人型確定拠出年金)の案内コールセンターなどに勤務。