男女の違いは「生まれ」か「育ち」か、専門家がたどり着いた結論は?
Fighting Gender Bias
お人形遊びが好きな男の子、車に夢中な女の子――典型的な男女の規範とは逆の方向に後押ししてあげるのもいい FROM LEFT: TATYANA VYC-SHUTTERSTOCK, OKSANA SHUFRYCH-SHUTTERSTOCK
<好きな遊びや行動パターン、男女の違いは生まれつき? 男らしさ/女らしさの過度な押し付けは有害になることもある。>
玩具売り場といえば、人形やままごとセットが並ぶ女の子向けコーナーと、怪獣のフィギュアやラジコンカーが並ぶ男の子向けコーナーに区分けされているもの──そんな常識が変わりつつある。
米小売り大手のターゲット社は男女別だった陳列棚を統合し、玩具専門店トイザらスは多くの国で商品に付ける性別表記を廃止。バービー人形で知られる米マテル社が発売した「ジェンダーフリー」の人形シリーズも人気を博している。
こうした変化は最近のパパママ世代の意識の変化を反映している。
多様性やLGBTの権利を重んじる教育を受けて育った世代が親になるにつれ、伝統的な男らしさ/女らしさを押し付けないジェンダー・ニュートラルな子育てをしたいという考え方が欧米を中心に急速に広がっている。
一方で、いざ親になってみると困惑の声も上がる。わが子をジェンダーの型にはめないよう細心の注意を払っているのに、2歳の娘はぬいぐるみと絵本が大好きで、4歳の息子は電車と戦いごっこに夢中。
やっぱり女の子と男の子には生まれつき、異なるOSがインストールされているのだろうか。
男女の違いが「生まれ」か「育ち」かという疑問は長年の論争の的だが、脳科学や心理学の専門家がたどり着いた結論は多くの親の直感とは異なるかもしれない。
確かに、男女間には生物学的な差異が存在する。例えば右脳と左脳をつなぐ脳梁(のうりょう)は女性のほうが大きく、幼児期の脳の発達の仕方や速度にも差がある。
だが、そうした違いが男女の能力や行動の違いに直結することを示す証拠は見つかっておらず、性別による違いより個人間の差異のほうがずっと大きいという見方が圧倒的に優勢だ。
それでもなお幼い男の子が冒険好きで、女の子にピンクの服を好む傾向が顕著に見られるとしたら、それは周囲の大人の反応や社会的な圧力によって小さな違いがじわじわと補強された影響かもしれないと、『ジェンダー化された脳』の著者で英アストン大学名誉教授のジーナ・リッポンは指摘する。
人形で遊ぶ女児に「女の子は優しいね」と声を掛ければ「女の子は常に優しくあるべき」という価値観が強化される。一方、乱暴な言動を「男の子だから仕方がない」と見逃せば、「好き勝手に振る舞っていい」という誤ったシグナルを送りかねない。
しかも大半の人は、自身のジェンダーバイアスに無自覚だ。
生後11カ月の赤ちゃんに傾斜の異なるスロープではいはいをさせた実験では、女児の親はわが子の運動能力を低めに、男児の親は高めに予測する傾向があった(実際の運動能力に男女差はなかった)。