最新記事

ルポ特別養子縁組

母となったTBS久保田智子の葛藤の訳と「養子」の真実

ONE AND ONLY FAMILY : A STORY OF ADOPTION

2020年12月25日(金)09時30分
小暮聡子(本誌記者)

彼女の本音をもっと聞き、母親にも会いたい。そう思い、今年11月初めに村田親子を訪ねて大阪に向かった。大阪市内のホテルのロビーで2人に対面すると、会った瞬間から、「ああ、親子だ」と思わせる空気にのみ込まれた。

互いに突っ込みを入れながら話す、親子の屈託のない会話の中で、明子は小学生の頃を振り返り「特別養子縁組制度が何なのか、もっと早いうちから全部教えてほしかった」と訴えるように言った。勝手な「配慮」は要らなかったし、制度についての情報は全て教えてほしかった。

「実母」という言葉で語られる人が自分で育てられなかった事情を聞いてもいいことがなさそうだし、会いたいとも特に思わない。だが最近は、乳癌など遺伝性のある病気を持っているのか、どういう体形なのかなど、女性であるが故に気になることはある。

初めて聞く娘の率直な思いを、傍らの母親は神妙な面持ちで受け止めながらこう言った。「私はこれまでに、『生みのお母さん』という言い方をしたことは一度もない。明子にとってのお母さんは、私1人だけだから」

明子を育てる日々は「毎日がとにかく必死だった」という母親は、それでも数年前から里親制度で小学生の子供を育てている。「私は特別養子縁組という制度で親になることができた。この制度に恩返しがしたかった」という。50歳を過ぎてからの2度目の挑戦は、23年前の自分の選択を肯定するからこそ、なのだろう。

「養子」の真実と社会の理解

ここに興味深いデータがある。日本財団が16年に子供が15歳以上の特別養子縁組(回答全体の82%)と普通養子縁組(同18%)の家庭を対象に行った調査によると、「自分が今、幸せである」という幸福感は、養子のほうが一般家庭の子供の平均よりも高い(下図参照)。

また、子供を育てたことについて「とても良かった」と感じている養親は74.4%、「良かった」は21.2%、父母に育てられたことについて「とても良かった」と感じている養子は61.3%、「良かった」は29.1%と、ほとんどの親子が互いに家族になれたことを肯定的に捉えていることも分かった。

magSR201222_Adoption_data2.jpg
magSR201222_Adoption_data3.jpg

日本財団が16年に子供が15歳以上の特別養子縁組と普通養子縁組の家庭を対象に行った調査によると、子供の幸福感は養子のほうが一般家庭の平均よりも高い。養子の回答では「10点」の割合が23.4%と最も高かった。(本誌2020年12月22日号25ページより)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮のロシア産石油輸入量、国連の制限を超過 衛星

ワールド

COP29議長国、年間2500億ドルの先進国拠出を

ビジネス

米11月総合PMI2年半超ぶり高水準、次期政権の企

ビジネス

ECB幹部、EUの経済結束呼びかけ 「対トランプ」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 6
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    巨大隕石の衝突が「生命を進化」させた? 地球史初期…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中