最新記事

「賞味期限を過ぎたら食べられない」が間違いである根本的な理由

2020年11月9日(月)17時30分
松永 和紀(科学ジャーナリスト) *PRESIDENT Onlineからの転載

3.賞味期限は多少過ぎてもおいしく食べられる

賞味期限は、科学的な検査等で得られた「おいしく食べられる期限」よりも少し短めに設定されています。たとえば、製造日から120日間、おいしく品質にまったく問題ない製品であれば、120に安全係数として0.8をかけ算して96日後を賞味期限とする、という具合です。この場合、賞味期限後の24日間は、おいしく食べられます。その後、緩やかに風味等は落ちて行きますが、すぐに食べられなくなるわけではありません。安全係数として1未満のどんな数字をかけ算するか。その判断は事業者自身に任せられています。

ただし、卵の賞味期限だけは意味が異なります。卵の賞味期限は「生で食べられる期限」です。

卵は、サルモネラ菌汚染を完全にゼロにすることができず、内閣府食品安全委員会の調査研究では10万個中3個、サルモネラ菌を中に含む卵が見つかりました。しかし、菌数はわずかでした。

卵を冷蔵し賞味期限内であれば菌は中で増殖しておらず、生で食べても発症にはつながりません。しかし、賞味期限を過ぎると、その後は卵の中で少しずつ菌が増えて行くとみられます。菌を多く食べると食中毒になるため、期限を過ぎたら加熱して菌を殺してから食べるべきです。

菌が増えていても加熱すれば菌の害はないため、賞味期限が過ぎたからといって卵を捨ててしまう必要はありません。とはいえ、賞味期限を何週間も過ぎた、というような卵は×。期限が切れた卵はせいぜい1週間程度で加熱して食べきってしまいましょう。

それに、冷蔵していなければ菌の増殖は早まるため、保存は必ず冷蔵で。殻が割れると、中の菌が急速に増殖したり外から菌が入り込んだりしますので、殻が割れた卵は賞味期限にかかわらずすぐに加熱して食べましょう。

4.期限切れ販売=「法律違反」とは言えないが

食品の販売が禁止されるのは食品衛生法に違反する場合です。食品が衛生上の危害を及ぼすおそれがなければ、一律に禁止とはなりません。しかし、消費期限が付けられた食品は食品表示基準Q&A(加工‐38)により、「この期限を過ぎた食品については飲食に供することを避けるべき性格のものであり、これを販売することは厳に慎むべき」とされています。

一方、賞味期限については同じQ&Aで「期限を過ぎたからといって直ちに食品衛生上問題が生じるものではありませんが、期限内に販売することが望まれます」と記述されています。

同じように、製造・加工事業者が原材料として使ってよいかも判断されます。

Q&A(加工‐43)によれば、消費期限切れの食品を原材料として使用するのは「厳に慎むべき」とされています。賞味期限切れの食材使用については、「提供する製品の品質に問題がないことを科学的・合理的な方法で確認するとともに、その関係記録・帳簿等が保存されている」など、一定の条件を満たせば原材料として使ってもよいとされています。したがって、冒頭のバンダイナムコの件も、まったく問題なかった可能性があります。

最近、個人的に気になるのは、賞味期限切れの食品を安価で販売する店のこと。食品ロス削減の切り札として、テレビニュースなどでも取り上げられています。期限切れ1年以内の食品に限るとか、バイヤーが実際に食べたり飲んだりして品質を確かめるとか。

たしかに、多くの食品は賞味期限切れであっても問題ないのですが、食品の原材料や製法、それに容器等によって、品質がどの程度保たれるかはまちまちです。そして、非常に重要なのは保存方法。温度や湿度等によって食品の品質劣化のスピードは大きく変わるので、一括表示欄に、「要冷蔵(10℃以下) 」「直射日光を避ける」などと記載されます。期限が有効なのはこの保存方法を守って保管されていたときだけ。期限と保存方法は必ずセットでチェックされるべきです。

たとえば、日本缶詰びん詰めレトルト食品協会は「缶詰、びん詰、レトルト食品は賞味期限を過ぎたらどうなる?」というページを設けて、それぞれの特徴や保存方法を説明しています。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中