最新記事

「賞味期限を過ぎたら食べられない」が間違いである根本的な理由

2020年11月9日(月)17時30分
松永 和紀(科学ジャーナリスト) *PRESIDENT Onlineからの転載

賞味期限が切れたら食べない方がよい食品もある

食品の種類によっては、賞味期限切れを食べない方がよい、という食品もやっぱりあります。個人的には、浅漬けは賞味期限が切れたら食べません。浅漬けは野菜を生の食感のまま漬けるという商品の特性上、加熱殺菌が難しく、開封前であっても中に菌が含まれています。しかも、塩味が薄いため塩分による菌抑制効果がなく、日が経つと増殖し変質しやすいのです。事業者によっては消費期限を表示するところもあり、衛生品質の管理は容易ではありません。

一方、同じ漬物であっても容器包装に充填後に加熱殺菌したものもあり、賞味期限が切れた後もかなり長期間、おいしく食べられます。消費者にとってはなんともわかりにくい話です。

賞味期限切れの食品をいつまで食べられるか、というのは、食品のことを知れば知るほど、どうしても説明の歯切れが悪くなる難問です。賞味期限切れの食品を販売する店が、こうした科学を知ったうえで販売してくれるとよいのですが。

「食品ロスを減らすために食べましょう」だけで片付けられることでないのはたしか、です。

5.事業者が表示する期限は、開封されていない時のみ有効

実際のところ、これがもっとも大きな誤解かもしれません。消費期限も賞味期限も、加工食品が開封されておらず、表示に記載された保存方法が守られていた時のみ有効です。パッケージが開けられると、空気中をただようカビの胞子や消費者の手に付いた細菌等が中に入り放題となり、温度によっても微生物の増殖や食品成分の変質状況は変わりますので、事業者の責任の範疇ではありません。消費者は、開封したらなるべくはやく食べきるのが鉄則です。

ただし、すぐに食べきることが難しい食品はマヨネーズや食用油、みそなど、たしかにあります。多くの企業がウェブサイト等でこの疑問に回答しています。たとえば、(株)味の素のお客様相談センターはマヨネーズについて、「開栓後は、キャップをしっかりしめて、冷蔵庫保存をお勧めします。(中略)開封後は、なるべく1ヵ月以内にお召し上がりください」と説明しています。

味の素お客様相談センターのページ。開封後の保存方法について、冷蔵庫のどこに入れたらよいか、どんな色になったら使用をやめるべきかなど、ていねいに解説している

newsweek_20201106_155322.png

味の素お客様相談センターのページ。開封後の保存方法について、冷蔵庫のどこに入れたらよいか、どんな色になったら使用をやめるべきかなど、ていねいに解説している

キューピー(株)はマヨネーズについては「開栓後は冷蔵庫で保存し、1カ月を目安に召しあがってください」としています。同社の「アヲハタ55ジャム」は、「開栓後は、冷蔵庫(10℃以下)に入れていただいて、2週間を目安にお早めにお召しあがりください。(中略)清潔なスプーンを用い、使用後はすぐにキャップを閉めてください」とのことです。

ハナマルキ(株)は「よくある質問」の中で、「みそは発酵食品であり、古くから保存食として使用されてきました。このため、賞味期限が過ぎてもご使用できなくなるわけではございませんが、風味に変化が生じてしまいますので、期限内にご使用頂きますことをお願いいたしております」と説明しています。

これらは、各社が自らの製品の原材料や性質等を把握しているからこそ、責任を持って答えられること。したがって、「マヨネーズは1カ月、ジャムは2週間」などと一般化するのは不可能です。

〈参考文献〉
消費者庁・食品表示法等(法令及び一元化情報)
消費者庁・[食品ロス削減]食べもののムダをなくそうプロジェクト
味の素お客様相談センター・知ってお得なマメ知識 適切な「保存方法」

※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

英賃上げ率、今後12カ月は3%維持へ 高インフレの

ビジネス

SKハイニックス、第3四半期は過去最高益 スーパー

ワールド

パキスタン、アフガニスタンとの停戦協議決裂=情報・

ワールド

トランプ氏が韓国到着、米中首脳会談「良い結果得られ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」にSNS震撼、誰もが恐れる「その正体」とは?
  • 2
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理に押し上げた「2つの要因」、流れを変えたカーク「参政党演説」
  • 3
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 4
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 5
    楽器演奏が「脳の健康」を保つ...高齢期の記憶力維持…
  • 6
    「ランナーズハイ」から覚めたイスラエルが直面する…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「何これ?...」家の天井から生えてきた「奇妙な塊」…
  • 9
    リチウムイオンバッテリー火災で国家クラウドが炎上─…
  • 10
    「死んだゴキブリの上に...」新居に引っ越してきた住…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 10
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中