最新記事
メンタルヘルス

笑顔の裏で心はグレー、「ほほ笑み鬱」はほかの鬱病より危ない

‘SMILING DEPRESSION’

2020年4月30日(木)10時35分
オリビア・リームス(ケンブリッジ大学博士研究員)

表面上は楽しそうに見えるほほ笑み鬱病は本人も気付かないことが ILLUSTRATION BY SURAVID-SHUTTERSTOCK

<人前では明るく、普通に振る舞えるからこそ自殺の危険も。判断しにくいタイプの鬱病を見逃さないために──。本誌特別編集ムック「世界の最新医療2020」より>

楽しそうでも実は鬱──そんな「ほほ笑み鬱病」の知名度は上がる一方だ。一般向けメディアでも取り上げられるようになっており、グーグルの検索数は近年、飛躍的に増加している。でも、これは本物の病気なのか。そう問う声もあるかもしれない。

202003NWmedicalMook-cover200.jpgほほ笑み鬱病は正式な学術用語ではないが、こうした状態は確かに起こり得る。医学的には、非定型鬱病に最も近い症状だ。

ほほ笑み鬱病に悩む人を見分けるのは、場合によっては極めて難しい。彼らには仕事も家もあり、子供やパートナーもいて、落ち込む理由は表面上見当たらないことがある。挨拶すれば笑顔で返すし、楽しく会話もできる。要するに、はた目にはノーマルで活動的な生活をしているのだ。

だがその裏では絶望して落ち込み、時には人生を終わりにしようとまで考える。鬱でも日常生活を続ける気力があるからこそ、彼らは実際に自殺してしまう恐れが特に大きい。自殺を考えることがあっても、実行に移すだけのエネルギーがないほかのタイプの鬱病患者とは対照的だ。

ほほ笑み鬱病の場合、仕事で評価されるなどポジティブな出来事があれば元気になるが、直後にまた落ち込みが始まる。過食、腕や脚が重く感じる、批判や拒絶に傷つきやすくなるといった症状もある。夜になると沈み込みがちで、普段より長い睡眠時間を欲するようにもなる(ほかのタイプの鬱病は朝方に気分が沈み、睡眠時間が短くなる傾向がある)。

ほほ笑み鬱病は特定の気質を持つ人により多いようだ。なかでも失敗を恐れ、ネガティブな体験について思い詰めるタイプと関連が強い。

まずは病気の存在を認める

気分の落ち込みに悩む人は10人に1人に上り、そのうち15~40%はほほ笑み鬱病に似た非定型の鬱を患っている。青少年期に始まるケースが多く、長く続く可能性がある。

ほほ笑み鬱病の患者は助けを求めることが特に重要だ。だが残念なことに、大抵の人はそうしない。そもそも、彼らは自分に問題があるとは思っていないことがある。一見、以前どおりの日常生活を送っている場合は、とりわけそうだ。落ち込む理由はどこにもないと自分を納得させ、問題について誰にも話さないまま自分の状態を恥ずかしく思ってしまう。

この悪循環を断ち切るため、まずはほほ笑み鬱病は深刻な病気だと認識しよう。問題にふたをすることをやめなければ、変化は始まらない。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米食品大手クローガーとアルバートソンズ、合併破談巡

ワールド

ロシア・ウクライナ、黒海・エネ停戦で合意 ロ「制裁

ビジネス

トルコ財務相と中銀総裁、市場安定化に全力注ぐと外国

ワールド

英、ロシアに全面停戦求める 黒海・エネルギー施設攻
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取締役会はマスクCEOを辞めさせろ」
  • 4
    「トランプが変えた世界」を30年前に描いていた...あ…
  • 5
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 6
    トランプ批判で入国拒否も?...米空港で広がる「スマ…
  • 7
    「悪循環」中国の飲食店に大倒産時代が到来...デフレ…
  • 8
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 9
    老化を遅らせる食事法...細胞を大掃除する「断続的フ…
  • 10
    【クイズ】トランプ大統領の出身大学は?
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 5
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 10
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中