その迫力は圧倒的! 世界最大級の油彩画が、北海道の新冠町にある理由とは?
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「ディマシオ美術館」に展示されている、世界最大級の油絵。展示室は体育館を改装した
この絵画の大きさ、写真から想像できるだろうか? 絵の前に佇む人物との対比が、その超絶スケールを物語る。縦9m、横27mにも及び、単独の作家がキャンバスに描いた油絵としては世界最大級だ。作者は、現代の幻想絵画の鬼才と評される、ジェラール・ディマシオ。作家渾身の超大作が展示されている「太陽の森 ディマシオ美術館」は、競走馬の聖地として名高い北海道の新冠町にある。なぜ、北の大地に、巨大な幻想絵画を展示するミュージアムができたのか? 創設者に話を聞いた。
開拓者魂を受け継ぎ、アートで土地を開拓
新千歳空港から車で約60分。緑の牧草地で馬がのんびり草を食む牧歌的な風景が広がる中、ひときわ目を引くオレンジ色の屋根の建物が見えてきた。開拓時代を思わせるレトロな建築が美しい、「太陽の森 ディマシオ美術館」である。
「ここはもともと、廃校となった地元の小学校校舎だったんです」と語るのは、美術館の設立者であり、理事長を務める谷本勲さん。美術館を巡るストーリーは、40数年前にディマシオと出会った頃に遡る。「それまで実業ひとすじで、アートにほとんど興味はなかったのですが、パリのギャラリーで彼の個展を見て、あまりの美しさに衝撃を受けました」。過去と未来、現実と夢とが交錯するようなディマシオの世界に、無限の想像力を喚起されたのだという。
コレクションはいつしか200点を超え、美術館を作って多くの人に見てもらいたいと思うようになった。作家自身も奮起し、1997年に完成した一世一代の作品が、世界最大級の油彩画なのだ。
この大作が収まる規模の場所探しに10年以上費やしたある日、新冠町の廃校校舎がネットオークションにかけられるというニュースに遭遇。すぐさま現地に赴いた谷本さんは、地区の開拓者として尽力してきた長老の、「ぜひここを再生してほしい」という熱意に心打たれた。「開拓者魂が乗り移ったんでしょうね。今後は鍬の代わりにアートでこの地を開拓しようと決意しました」。立派な作りの校舎は補修の必要もなく、大きな体育館は絵がぴったり収まるサイズだったため、改装は急ピッチで進み、2010年に美術館としてオープンした。
建物の中に入ると、ディマシオの幻想的な世界に一気に引き込まれる。体育館だった展示室では、壁一面に広がる超大作の有無を言わせぬ迫力に、息を呑まずにはいられない。
元プールだった場所を改装して「ガラスの美術館」をオープン
さらに今春、敷地内の元プールを改装した「ガラスの美術館」もオープンした。「周りの自然との共生を大事にしたい」との意図から、全面ガラス張りの作り。作品を鑑賞しながら外の緑を眺めることもできるし、外に設けられた遊歩道からも中の作品を眺められるという、まさに自然と一体になった美術館だ。ここでは、ガラス工芸の巨匠、ルネ・ラリックのコレクションが150点ほど展示されているほか、日本の近代ガラス作家・壹谷旭(いちやあきら)の作品も多く見られる。
日本でも有数のラインアップを誇るラリック作品は、見応えたっぷり。ディマシオ美術館内にも展示スペースが設けられており、そちらは黒一色の室内の中、半透明のオパルセント・ガラスの神秘的な美しさが浮かび上がる展示が印象的だ。両方の対照的な空間で、代表作の数々をゆったり鑑賞することができる。