人間の体は搾取してリサイクルする有機物の塊...ポン・ジュノ監督最新作で「今ここにあるディストピア」へようこそ
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2人のミッキーが生き残りを目指す ©2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.
<まるで現在進行中の独裁世界が近未来の異星で展開する、ポン・ジュノ監督の最新作『ミッキー17』。奇抜な設定の世界が21世紀資本主義社会を生きる我々に突き付ける「現実味」>
長い待ち時間だった。国際的に高く評価された前作『パラサイト 半地下の家族』から約5年。ハリウッドのストの影響で公開延期が続いたポン・ジュノ監督の最新作『ミッキー17』は、その風刺的メッセージが現実と見事に重なり合うタイミングで登場した。
独裁的な大富豪(けばけばしいテレビ番組のホストでもある)が支配する宇宙植民地を舞台にしたダークコメディーの本作が、当初の予定どおり昨年3月に全米公開されていたら、起こり得る未来への切実な警告として受け止められたかもしれない。だがもはや、これは「今」そのものだ。
エドワード・アシュトンが2022年に発表したSF小説を原作とする『ミッキー17』は、54年の氷の惑星ニヴルヘイムで幕を開ける。
ミッキー(ロバート・パティンソン)は氷の穴の底に孤独に横たわり、間近に迫る死について考えている。そこへティモ(スティーブン・ユァン)が現れ、凍死しても大丈夫だと励まして引き返す。明日になれば、再び複製されるのだから──。
「使い捨て」になる人間
テンポのいい回想シーンが始まり、これまでの経緯が明らかになる。4年4カ月前、ミッキーとティモはマカロン販売業に失敗し、借金を背負った。拷問好きの闇金融業者から逃れるため、2人は異星の植民地化計画に参加する。
だがその際、ミッキーは致命的なミスをした。契約書をよく読まず、「使い捨て」になることに同意してしまったのだ。最新バイオ技術のヒューマン・プリンティングによって、「使い捨て」は何度死んでも、元の記憶を持ったコピーとなって生き返る。