最新記事
映画

パレスチナ人とイスラエル人の監督による異色の映画...アカデミー賞最有力『ノー・アザー・ランド』とは?

Watch, Be Touched, and Then?

2025年2月28日(金)18時09分
サム・アダムズ(スレート誌記者)
『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない(No Other Land)』場面写真

イスラエルによる住宅破壊が進むパレスチナ人居住地区で撮影された本作は住民の抵抗と人間としての姿を描き、ドキュメンタリーの力を問う ©2024 ANTIPODE FILMS. YABAYAY MEDIA

<イスラエル軍のブルドーザーが家や学校を破壊するのは恐ろしいけれど「見慣れた光景」だ。賞レース総なめもアメリカでの配給が決まらない、ドキュメンタリー映画が描く不都合な真実──(米誌記者レビュー)>

ドナルド・トランプ米大統領の衝撃の「ガザ所有」発言がもたらした最も重大な結果とは、到底言えない。だが今や、はっきりしたことがある。今年のアカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞する作品は、ほぼ決まりだ。

パレスチナ自治区ガザから住民約200万人を追い出して、アメリカがリゾート開発する。そんな構想をトランプが表明したのは2月上旬だ。スレート誌コラムニストのフレッド・カプランによれば、「米大統領による史上最も異常な中東問題発言」だった。


それ以前から『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない(No Other Land)』は長編ドキュメンタリー賞の最有力候補と見なされていた。

『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』予告編


2019~23年にヨルダン川西岸のパレスチナ人居住地区マサーフェル・ヤッタで撮影した本作は、イスラエル当局による住宅の破壊に抵抗するパレスチナ人の姿を鮮烈に描き、高く評価されていた。

とはいえ、もはや疑問の余地はない。今年のアカデミー賞の最多部門候補作『エミリア・ぺレス(Emilia Pérez)』は、主演のトランス女性俳優の過去の人種差別発言が判明し、トランプ政権への抗議の意思表示として選ぶのが難しくなった。

ならばなおさら、『ノー・アザー・ランド』に賞を授与するのが、世界にメッセージを発する上で最も明快な選択肢だ。

その決断には、皮肉も付きまとう。昨年の受賞作『マリウポリの20日間(20 днів у Маріуполі)』と同様、ドキュメンタリーの効果を疑問視し、不正義を広く知らしめることが変化を生むという考えを疑ってかかる作品が賞に輝くことになるのだから。

映画『マリウポリの20日間』予告編
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

カナダGDP、24年第4四半期は2.6%増 予想上

ワールド

国連総長、米の対外援助削減に懸念表明 弱者に「壊滅

ワールド

英開発相が辞表提出、対外援助予算削減に反発

ワールド

ギリシャで数十万人がスト、列車事故から2年 政府対
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:破壊王マスク
特集:破壊王マスク
2025年3月 4日号(2/26発売)

「政府効率化省」トップとして米政府機関に大ナタ。イーロン・マスクは救世主か、破壊神か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 3
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身のテック人材が流出、連名で抗議の辞職
  • 4
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 5
    米ロ連携の「ゼレンスキーおろし」をウクライナ議会…
  • 6
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 7
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 8
    日本の大学「中国人急増」の、日本人が知らない深刻…
  • 9
    【クイズ】アメリカで2番目に「人口が多い」都市はど…
  • 10
    「売れる車がない」日産は鴻海の傘下に? ホンダも今…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チームが発表【最新研究】
  • 3
    障がいで歩けない子犬が、補助具で「初めて歩く」映像...嬉しそうな姿に感動する人が続出
  • 4
    富裕層を知り尽くした辞めゴールドマンが「避けたほ…
  • 5
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
  • 6
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身…
  • 7
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 8
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    東京の男子高校生と地方の女子の間のとてつもない教…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 10
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中