「私たちが客に恋すると思うわけ?」元ストリッパーが見たアカデミー賞期待作『アノーラ』のリアル
A Sex Worker’s Take on “Anora”
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ベイカーが描く主人公のアノーラ(中央)は自力で幸せを勝ち取ろうとする NEONーSLATE
<カンヌ映画祭で最高賞を受賞。「セックスワークを正確に描いた」と称賛されているが、元ストリッパーの私から見れば、他の「がっかり娼婦映画」と変わらない部分も──(レビュー)>
私は元ストリッパー。しばらく前にロサンゼルスのビバリーヒルズで、昨年のカンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールに輝いたショーン・ベイカー監督作『アノーラ(Anora)』の試写を見た。
ヒロインのアノーラ(通称「アニー」)は私の同業者だが、試写室を埋めた評論家やジャーナリストに同業者はいそうもない。ぞっとした。
この作品、世間では「セックスワークを正確に描いた」と絶賛されているが、本当にそうだろうか。セックスワーカーを主役にした映画をセックスワーカーが見てがっかりするのは、残念ながら今に始まった話ではない。
この手の映画の結末は大抵決まっている。ヒロインが晴れてセックス産業から抜け出すハッピーエンドか、そのまま商売を続けて悲惨な運命をたどるかだ。
その過程での彼女は暴力や貧困、偏見の被害者とされ、力強く自立した女として描かれることはまずない。もちろん例外はあるが、私の職業を「正確に」描いた映画は数えるほどしかない。
セックスワーカーを描いたアメリカ映画で最も有名なのは、ジュリア・ロバーツ(Julia Roberts)の出世作『プリティ・ウーマン(Pretty Woman)』だろう。
ロバーツが演じた世間知らずのビビアンは望まずして売春婦となったが、運よく上客と巡り合ってハッピーエンドを迎えた。でも今度のアニーは大人だ。決して受け身ではなく、自分で自分の道を切り開いていくプロだ。
彼女は自分の純真さではなく、その適性とスキルで獲物を捕まえる。絶望なんてしないし、人身売買の犠牲者でも、いわゆる「心優しき娼婦」でもない。