モルモン教徒vs米政府...ダークで血みどろな西部劇『アメリカ、夜明けの刻』が描く「負の開拓史」
A Dark Time in Morman History
マウンテンメドウの虐殺とその影響は、よりじっくり描くのに適したテーマのはずだ。だが事件をめぐる政治的事情を考えると、そうした選択はリスクが大きい。それに、あまりに凄惨な虐殺の模様は誰も見たくないだろう。
この難題を解決するため、バーグとスミスは虐殺の暴力を薄めて伸ばし、物語のあちこちに拡散している。その結果、どこもかしこも暴力だらけに思えてくる。
ドラマでは、虐殺は数日間の籠城の後ではなく、おしゃべりをしている開拓団の女性の額に突き刺さる矢という形で、突然始まる。確かに、大勢が死ぬし、印象は強烈だ。
だが虐殺現場を逃れたサラの視点から事件を語っているため、その描写は長く続かない。7歳以上の子供が殺される場面を目にすることもない。
虐殺を控えめに描いた理由をスミスはネットフリックスの宣伝資料で示唆している。
「攻撃の両側面を示したかった。(モルモン教徒が関わっていたイリノイ州民兵の)ノーブー軍団とモルモン民兵団が引き起こしたのは事実だが、彼らが(ほかの白人開拓者を)脅威と見なしていたことを理解しなければならない」
ドラマでは、モルモン教徒への暴力事件を報じる見出しが映し出され、彼らの一夫多妻制を批判して殺害予告をする開拓者らとの対立もしばしば描かれる。
ベイカー・ファンチャー開拓団に、少数のモルモン教徒を加える脚色も行っている。その代表が、思いやりのあるプラット夫妻だ。虐殺事件による2人の別離とその後の再会は、物語の大きな要素になっている。