『レ・ミゼラブル』の楽曲を「歩格」で見てみると...楽譜と歌詞に織り込まれた「キャラクターの心」とは?
まず、最初の強い音は1拍目になる、という期待を裏切られる。(中略)みえにくいが、いちおう表拍にあたる音は、強い音になっているから、リズムはあっている。
しかし、弱いはずの"now"や"your"、"you"のほうが強い音に聞こえてくる。軍隊のかけ声に似た、命令口調とでもいったらいいだろうか。そして、上から下へ4度跳躍してさがる音程だけでできている。旋律を使うなど、この囚人たちにはもったいない、といわんばかりである。
つまり、ジャベールの居丈高な態度、囚人を人間として見くだした口調が、ここにあらわれている。4音(音楽用語で完全4度)上がり、正しいリズムを強調するかのような囚人たちの"Look down"の旋律とはまさしく対極にある。
じつは、音楽のうえだけでも、すでにわたしたちには囚人と官憲、どちらが正しいのか、という問いがつきつけられているのである。
※第1回はこちら:ミュージカルは「なぜいきなり歌うのか?」...問いの答えは、意外にもシンプルだった
[引用楽譜(浄書したものを書籍から抜粋)]
Schönberg, Claude-Michel and Herbert Kretzmer, Cameron Mackintosh Presents the Musical Sensation Les misérables piano/vocal album, London: Faber Music, c.1986.
『ミュージカルの解剖学』
長屋晃一[著]
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長屋晃一
1983年生まれ。愛知県出身。國學院大學文学部卒(考古学)。慶應義塾大学大学院文学研究科にて音楽学を学ぶ。博士課程単位取得退学。修士(芸術学)。現在、立教大学、慶應義塾大学他で非常勤講師。19世紀のイタリア・オペラにおける音楽と演出の関係、オペラ・音楽劇のドラマトゥルギーについて研究を行っている。「ヴェルディにおける音楽の「色合い」:《ドミノの復讐》の検閲をめぐる資料から」(『國學院雑誌』、2023年)、「音楽化される川端康成:歌謡曲からオペラまで」(共著『〈転生〉する川端康成』、2024年)他。また、研究に加えて、舞台やオペラの脚本も手掛けている。オペラ《ハーメルンの笛吹き男》(一柳慧作曲、田尾下哲との共同脚本、2013年)、音楽狂言『寿来爺(SUKURUJI)』(ヴァルター・ギーガー作曲、2015年)他。
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