『レ・ミゼラブル』の楽曲を「歩格」で見てみると...楽譜と歌詞に織り込まれた「キャラクターの心」とは?
ミュージカル『レ・ミゼラブル』を上演中の英ソンドハイム・シアター外観 John Wreford-shutterstock
<大ヒットミュージカルの楽曲をリズムによって紐解くと、言葉にあらわれていなかったキャラクターの心が見えてきた>
ミュージカルという芸術ジャンルの核心部として、音楽に乗せられる歌詞の「しらべ」がある。
「しらべ」とは、英語であればシラブルの数やアクセントの位置による「リズム」や「音韻」を効果的に組み合わせて、特定の気分や雰囲気を表現する調子だ。
こうした「しらべ」はミュージカル楽曲の中でどのように形成され、どのような効果をもたらしているのか。オペラや音楽劇の研究を行っている長屋晃一氏の著書『ミュージカルの解剖学』(春秋社)より一部抜粋して紹介する(本記事は第2回)。
※第1回はこちら:ミュージカルは「なぜいきなり歌うのか?」...問いの答えは、意外にもシンプルだった
長屋氏は英語をはじめとするヨーロッパ言語の詩のリズムのうち、アクセントをもつ強い音を「●」、アクセントをもたない弱い音を「○」として、詩のリズムを分析している。扱ったのは現在帝国劇場で上演中のミュージカル『レ・ミゼラブル』の楽曲だ。
強い音(●)をひとつもったリズムの最小のまとまりを「歩格meter」という。この「歩格」が1行に4回出てくると「4歩格」といい、5回出てくると「5歩格」という。
この「歩格」とその回数が、音楽にとってはかぎりなく重要になってくる。フレーズを何小節でまとめるか、という旋律の作り方に関わってくるからだ。ここからは、詩のリズムの基本となる4種類の「歩格」を紹介しながら、音楽との関係を少しずつ分析して示してみたい。
(1)イアンブス格(○●)
「弱強格」ともいわれ、ヤンブスと呼んだり、英語では「アイアンブiamb」などともいう。英語の詩では、このイアンブス格はたいへんに好まれる。だから、ミュージカル・ナンバーの歌詞でもイアンブス格の詩はひじょうに多い。
この〈囚人の歌〉は、規則正しいイアンブス格の連続で、「下を向けlook down」が基調となって繰り返される。奇数行が2歩格、偶数行が3歩格、という組み合わせでできている。このリズムの単純さは、囚人たちが実際に服務につきながら歌う、労働歌らしさも表している。
ここで、ちょっとリズムだけでない、「しらべ」をつくる「音」のはなしもついでにしておきたい。2行目の「目eye」と4行目の「死ぬdie」は脚韻をふんでいる。
脚韻は調べを整えるためにも用いられるし、同じ脚韻の単語どうしがなんらかの意味のふくみをもつこともある。この4行ではそのふくみはみえない。
また、繰り返される"down"という言葉の響き(d やwn)は、その意味「下へ」のイメージもあいまって、下に向かうような重たさがある。さらには、"down"のイメージが、「ここhere」という場所、そして「死ぬdie」という土の下の世界へと結びつく。
"down"と"die"は頭韻(ダという音)も踏んでいるため、響きのうえでも結びつきを強めている。
音楽をみてみよう(譜例6)。
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