羽生結弦がいま「能登に伝えたい」思い...被災地支援を続ける羽生が語った、3.11の記憶と震災を生きる意味

Lending a Helping Hand

2024年10月4日(金)17時11分
小暮聡子、大橋 希(本誌記者)

輪島市で倒壊したままの「五島屋」の7階建てビル

輪島市で倒壊したままの「五島屋」の7階建てビル(9月13日) TORU YAGUCHI FOR NEWSWEEK JAPAN

──被災地出身ということが、ご自身のアイデンティティーに加わっていったということでしょうか。

それを受け入れるまでには、自分の中で紆余曲折ありました。ちょうど高校生になり、シニアに上がって2年目のシーズン(2011-12年)を迎えるに当たって、今まで頑張ってきたことで(試合の)結果が取れたり、日本代表になれたりということがあった。それなのに、とにかく被災地出身で頑張っている人間としか見られなくなったことが悔しかったし、苦しかった時期がありましたね。

でもいろんな方々の手紙や応援のメッセージを見て、「こんなにも応援してもらえる人間はいないだろうな」と思うようになり、(被災地出身であることが)だんだんと自分のアイデンティティーに変わっていきました。


──羽生さんは、被災した経験や被災地出身であるということを、自分の強さにしていったのだと思います。どうやったら被災経験をプラスに変えていけるのでしょう。

それは本当に難しいですよね。強制的に前を見ろとは言えないし、これまでのこともこれからのこともそれぞれの立場によって違うから。

でも、きっといつか何かが起きるときがやって来る。僕の場合、みなさんの応援メッセージだったり、結果だったり失敗だったりが震災というものを受け入れるきっかけを与えてくれました。

例えば能登でいえば、水が出るようになった、(地元を離れて)金沢の学校に行かなくても済むようになったという状況かもしれないし、違う場所で商売ができるようになったということかもしれない。いろんなきっかけが待っていると思うんです。その中で自分の生き方や、自分の命の価値みたいなものがちょっとずつ見えてくるのではないかと思います。

震災は「起きなければいいこと」だとは思います。絶対に。ただ、すごく悲しいけれど、起きてしまったことは元に戻せない。失ってしまったものは戻ってこない。でもいつかはそれを受け入れ、認めなきゃいけない。

それには何十年もかかるかもしれないけれど、笑えるようになるときがきっと来る。そう信じて、無理をせず、時に身を任せていいのかなと思います。

今すぐ笑顔になってほしいと僕は言えないし、僕自身も(宮城県)石巻市など津波の被害に遭った場所に足を運ぶことはなかなかできませんでした。そこで失われたものがあまりに多すぎたし、僕が行っていいのかと、躊躇する気持ちがありました。

でも、自分が金メダルを取ったことや二連覇したこと、金メダルを見せたり演技を見せたりすることによって、もしかしたらみなさんが「自分も頑張ってきた」とか、「自分が生きている意味がある」とか何かしら感じられる小さなきっかけになるかもしれない、そう思って、今やっと活動ができるようになってきました。

きっと何かしらのきっかけがみなさんを待っていると思うので、大丈夫だよ、とは言いたいですね。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ヒズボラ指導者後継候補の安否不明、イスラエル空爆の

ワールド

ヒズボラ指導者後継候補の安否不明、イスラエル空爆の

ワールド

イラン最高指導者、対イスラエル攻撃正当化 闘争強化

ワールド

EUが中国製EV関税発動へ、加盟国の支持獲得 協議
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大谷の偉業
特集:大谷の偉業
2024年10月 8日号(10/ 1発売)

ドジャース地区優勝と初の「50-50」を達成した大谷翔平をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    アラスカ上空でロシア軍機がF16の後方死角からパッシング、信じられない映像を米軍が公開
  • 3
    NewJeansミンジが涙目 夢をかなえた彼女を待っていたのは......
  • 4
    米軍がウクライナに供与する滑空爆弾「JSOW」はロシ…
  • 5
    【独占インタビュー】ロバーツ監督が目撃、大谷翔平…
  • 6
    野原の至る所で黒煙...撃退された「大隊規模」のロシ…
  • 7
    オアシス再結成で露わになる搾取...「ダイナミック・…
  • 8
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 9
    大谷翔平と愛犬デコピンのバッテリーに球場は大歓声…
  • 10
    年収600万円、消費者金融の仕事は悪くなかったが、債…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はどこに
  • 3
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する「ロボット犬」を戦場に投入...活動映像を公開
  • 4
    エコ意識が高過ぎ?...キャサリン妃の「予想外ファッ…
  • 5
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 6
    【独占インタビュー】ロバーツ監督が目撃、大谷翔平…
  • 7
    アラスカ上空でロシア軍機がF16の後方死角からパッシ…
  • 8
    大谷翔平と愛犬デコピンのバッテリーに球場は大歓声…
  • 9
    NewJeansミンジが涙目 夢をかなえた彼女を待ってい…
  • 10
    【クイズ】「バッハ(Bach)」はドイツ語でどういう…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 3
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 4
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは.…
  • 5
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 6
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 7
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 8
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組…
  • 9
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 10
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中