「惨めなクリスマス映画」の新定番、インテリおじさん教師の悲哀を描く『ホールドオーバーズ』
Alone at Christmas
ペインは最初からジアマッティのキャスティングを想定し、ヘミングソンにその旨を告げて脚本を依頼した。ヘミングソンはこの作品で、今年のアカデミー賞オリジナル脚本賞にノミネートされた。
ジアマッティは最高に笑えるだけでなく、インテリだけれど出身高校の教師になる以上のことを成し遂げられなかった男の悲哀を見事に表現している。終盤でポールが大学時代の同期生と偶然再会するシーンを見れば、アカデミー賞にノミネートされたのもうなずける。
ランドルフは、ネットフリックスのコメディー映画『ルディ・レイ・ムーア』(19年)で、主演のエディ・マーフィーを食う演技を見せたが、本作でもコミカルかつ懐の深いメアリーをこまやかに演じて、アカデミー賞助演女優賞を受賞している。
『ホールドオーバーズ』が、70年代の雰囲気をうまく再現しつつ、70年代に製作された映画と大きく違うのは、黒人女性料理長のメアリーを、「主人公の皮肉に早口で突っ込む面白い脇役」として扱うだけでなく、その心情を深く掘り下げた点だろう。
サブジャンルの定番に?
セッサは、ペインが映画の舞台となる高校を探している時に見いだした新人で、これが映画初出演。ポールの嫌みにすぐ切り返す頭の良さと、家族に見捨てられた感覚を併せ持つアンガスにぴったりの荒削りな部分を持つ。
もちろんまだこれからの部分も多く、ジアマッティやランドルフといったベテランと並ぶシーンでは、セッサの演技の未熟さが目立って、ストーリーにのめり込めないという批判さえ聞かれた。
だが、アンガスの秘密と苦悩が明らかになる映画の終盤は、十分説得力のある演技を見せていたと筆者は考えている。
優れたクリスマス映画はどれも、実のところクリスマスが寂しい時期であることを理解している。過去の思い出や家族や故郷を心温まる美しいものと決め付けるこの季節は、苦々しさや孤独感や疎外感といった正反対の感情を同じくらい強烈に呼び起こす。
『ホールドオーバーズ』は、クリスマスソング「ああベツレヘムよ」の合唱が流れるなか、雪化粧で絵画のように美しいバートン校の映像から始まる。だが、その後に続く物語は、孤独で心がゆがんだ主人公が改心する『クリスマス・キャロル』に近い。
ペインの過去の作品は、感情が排除されて冷たすぎると批判されることもあるが、『ホールドオーバーズ』は感傷的すぎると批判されるかもしれない。だが筆者の中では、「惨めなクリスマス映画」というサブジャンルで定番になる可能性を秘めている。
少なくとも、ジアマッティが抑揚のない口調で繰り出す、とりわけ下品だが気の利いたセリフは、パチパチと燃える暖炉の火のように心を温めてくれるだろう。
THE HOLDOVERS
『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』
監督/アレクサンダー・ペイン
出演/ポール・ジアマッティ、ダバイン・ジョイ・ランドルフ
日本公開は6月21日