最新記事
音楽

AI乱用への警鐘?...気持ち悪すぎて「見るに堪えない」ビートルズ「最後の新曲」のミュージックビデオの罪

Would John Have Approved?

2023年11月30日(木)14時20分
サム・アダムズ(スレート誌映画担当)
ビートルズ

故人のレノンとハリスンもビデオに登場 THE BEATLES/YOUTUBEーSLATE

<これではビートルズへの冒瀆。技術の進化に乗じて、今は亡きジョンとジョージを引っ張り出した監督の罪深さについて>

ジョン・レノンが踊っている。ビートルズのほかのメンバーが楽器を弾き歌う横で、お調子者のレノンはご機嫌な様子で跳ねるように踊る。

だが何かがおかしい。両手をイルカのひれみたいにパタパタさせ、妙な角度に曲げたかと思うと、窓でも拭くように宙で円を描く。体と頭の動きも微妙にずれる。手拍子のリズムが取れない聴衆のように、乗りが不自然だ。

これは「ビートルズ最後の新曲」と銘打って発表された「ナウ・アンド・ゼン」のミュージックビデオの一場面。ビデオは追憶の旅として幕を開け、存命のポール・マッカートニーとリンゴ・スターの映像を、今は亡きレノンとジョージ・ハリスンの昔の映像と交互に見せる。

しかし監督のピーター・ジャクソンは歳月をさかのぼるだけでは飽き足らず、消してしまいたかったらしい。

80代のマッカートニーとスターを『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』時代のレノン、ハリスンと共演させ、白髪のマッカートニーの横に亡霊のようなハリスンを立たせた。

ジャクソンが2021年のドキュメンタリー『ザ・ビートルズ:Get Back』の制作中に新技術を開発しなければ、新曲は誕生しなかっただろう。45年前の音源からレノンの声を分離できたのは、このAI(人工知能)技術のおかげだ。だが完成した曲はビートルズ風味のしぼりかすのようで、冴えない。

さらに、ビデオは別次元でたちが悪い。ジャクソンはレノンとハリスンを引っ張り出し、共犯者に仕立てて有無を言わさず協力させた。もはや追悼というより墓荒らしだ。

ジャクソンが約10年前に完結させた『ホビット』3部作は、文字どおり見るに堪えない映画だった。HFR(ハイフレームレート)3Dの採用が裏目に出たのだ。

故人は拒否できないのに

通常の倍の1秒48コマで撮影し映写するデジタル技術HFR3Dを彼が使ったのは、ファンタジーにリアルな感触を加えるためだった。ところがその映像は鮮明すぎて、観客は映画を見ているのではなく撮影現場に放り込まれた気がした。

その前の『ロード・オブ・ザ・リング』3部作では、特定の俳優を共演者より大きく見せる強制遠近法のような昔ながらの映画のマジックが、デジタル特殊効果とうまく同居していた。

しかし、それ以降のジャクソンは映画の出来を度外視し、最新テクノロジーを試すための方便として映画を利用している感がある。

ビジネス
栄養価の高い「どじょう」を休耕田で養殖し、来たるべき日本の食糧危機に立ち向かう
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

赤沢再生相が近く訪米で調整、米財務長官との協議模索

ワールド

中国国家主席、東南アジアを来週訪問 米との貿易摩擦

ワールド

ウクライナ軍事支援会合、5.8億ドルを追加支援 英

ワールド

台湾、海底ケーブル損傷巡り中国人船長を起訴
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税大戦争
特集:トランプ関税大戦争
2025年4月15日号(4/ 8発売)

同盟国も敵対国もお構いなし。トランプ版「ガイアツ」は世界恐慌を招くのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 2
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 3
    「やっぱり忘れてなかった」6カ月ぶりの再会に、犬が見せた「全力のよろこび」に反響
  • 4
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 5
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 6
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 7
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
  • 10
    右にも左にもロシア機...米ステルス戦闘機コックピッ…
  • 1
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 2
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 7
    ロシア黒海艦隊をドローン襲撃...防空ミサイルを回避…
  • 8
    「やっぱり忘れてなかった」6カ月ぶりの再会に、犬が…
  • 9
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 10
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 3
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中