最新記事
映画

「老いてなお、最高傑作」...巨匠スコセッシが挑む新境地、映画『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』の凄み

A New Scorsese Masterpiece

2023年11月10日(金)14時20分
デーナ・スティーブンズ(映画評論家)
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』

石油利権をめぐる欲望と陰謀が渦巻くなか、ディカプリオ演じるアーネスト(右)はモリーと人種や身分の違いを越えて真実の愛を育む APPLE TV+

<石油ブームに沸く町で実際に起きた悲劇を基に、人間の心の闇に迫った壮大なスケールの愛憎劇とは?>

マーティン・スコセッシ監督の『沈黙─サイレンス─』(2016年)が公開された際、これが彼の最後の作品にならないよう願いつつも、瞑想的で彼の思い入れ深い作品は傑出したキャリアの締めくくりにふさわしいと思った。

以来7年間、彼は超大作『アイリッシュマン』や遊び心あふれるセミドキュメンタリー『ローリング・サンダー・レヴュー:マーティン・スコセッシが描くボブ・ディラン伝説』を世に送り出してきた。

巨匠は現在80歳、キャリアは優に60年、このまま最も愛され影響力のある芸術家という栄冠に安住し休養しても不思議はない。だがこれまでの生き方とキャリアを厳しく見つめ直すかのような最近のインタビューからも分かるように、彼は過去の栄光に安住する人間ではない。

デイビッド・グランの同名ノンフィクションに基づく最新作『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』は、巨匠にとって新境地──つまり初の西部劇、非白人の登場人物を描く初の映画、そして女性の体験を取り上げる数少ない作品の1つだ。

本作では米先住民族オセージの女性モリー(リリー・グラッドストーン)が物語の中心的存在となる。

1920年代、米オクラホマ州。法的にはオセージの土地である石油地帯で残虐な殺人事件が相次ぎ、不安が広がっていた。大草原に開拓集落が点在する一帯は、スコセッシ作品でおなじみの都会のジャングルにどこか通じるものがある。

社会的階層は覆され、未舗装のみすぼらしい通りでオセージの富裕な一族が豪邸に住み、宝石や毛皮を身に着け、白人のお抱え運転手付きの高級車を乗り回す。

だがオセージには財力はあっても政治的・社会的な力はない──正確には、その力を行使する自由がない。モリーとその家族を含め、多くの石油利権保有者は自分の資金を利用するのに白人の「後見人」が必要なのだ。

それもあって、ここではオセージの女性と白人男性の結婚は珍しくない。モリーの姉妹の夫も白人で、彼女自身も一家のお抱え運転手アーネスト・バークハート(レオナルド・ディカプリオ)と結婚する。

アーネストのおじのウィリアム・ヘイル(ロバート・デ・ニーロ)は地元の有力者でオセージのコミュニティーと付き合いが長い。

国際移住者デー
すべての移住者とつくる共生社会のために──国連IOM駐日代表が語る世界と日本の「人の移動」
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

26年世界石油需要は日量143万バレル増、伸び継続

ビジネス

NY連銀総裁「金融政策はデータ次第」、政府巡る不確

ワールド

イスラエルとハマス、ガザ停戦で合意 第1段階は人質

ビジネス

ブラックロック第4四半期、運用資産が過去最高 株高
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    ド派手な激突シーンが話題に...ロシアの偵察ドローンを「撃墜」し、ウクライナに貢献した「まさかの生物」とは?
  • 4
    韓国の与党も野党も「法の支配」と民主主義を軽視し…
  • 5
    【随時更新】韓国ユン大統領を拘束 高位公職者犯罪…
  • 6
    中国自動車、ガソリン車は大幅減なのにEV販売は4割増…
  • 7
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 8
    ロス山火事で崩壊の危機、どうなるアメリカの火災保険
  • 9
    「日本は中国より悪」──米クリフス、同業とUSスチ…
  • 10
    TikTokに代わりアメリカで1位に躍り出たアプリ「レ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」
  • 4
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 5
    ロシア兵を「射殺」...相次ぐ北朝鮮兵の誤射 退却も…
  • 6
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「…
  • 7
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 8
    トランプさん、グリーンランドは地図ほど大きくない…
  • 9
    装甲車がロシア兵を轢く決定的瞬間...戦場での衝撃映…
  • 10
    古代エジプト人の愛した「媚薬」の正体
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中