「老いてなお、最高傑作」...巨匠スコセッシが挑む新境地、映画『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』の凄み
A New Scorsese Masterpiece
老いてなお、最高傑作
冒頭から、アーネストとモリーの関係には2人が十分承知している経済的な要素がある。甘い言葉をささやくアーネストを、モリーはお金目当ての「ショミカジ(コヨーテ)」と呼んで素っ気なくかわす。
だがそれも一種の誘惑で、アーネストは笑いながら自分も贅沢な暮らしに価値を感じていることを認める。
こうした描写の積み重ねが、人種も社会的・経済的地位も違う2人の結婚生活が搾取の可能性に満ちているにもかかわらず、モリーとアーネストが愛し合っているという事実に説得力を与えている。だからこそ、この事実が後に本作のやるせない核心になるのだ。
サスペンス仕立ての原作と違い、本作はコミュニティーを引き裂くことになる連続殺人事件の裏の真実を終始隠そうとしない。
観客は冒頭からヘイルがアーネストを操るのを目の当たりにし、ひそかなたくらみとは裏腹にオセージの人々に好意的な言葉を口にするのを耳にする。
だがオセージの人々を殺して彼らの富をわが物にしようというヘイルの陰謀は、彼の影響力の及ぶ範囲を優に超え、地元の医師や葬儀屋、保険会社、郡や州や連邦政府の当局者まで巻き込んでいく。
後半、連邦政府が新設した「捜査局」(FBIの前身)が捜査に乗り出す。捜査官がバークハート家の戸口に現れた瞬間から、2時間余りに及んだ組織犯罪の中のラブストーリーは一転して法廷劇と化す。
意志薄弱なアーネストは力あるおじへの恐怖と、打ちひしがれ、家族に先立たれ、それでもなお夫を信じる妻へのゆがんではいても真実の誠実さとの間で、板挟みにもがく。
標準的な西部劇とは懸け離れた特異な雰囲気は俳優陣の演技のたまものでもある。グラッドストーン演じるモリーは物静かで注意深く控えめだが、映画に出てくる典型的な「インディアン」のように禁欲的でもなければふびんなほど辛抱強くもない。
スコセッシ作品の女たちは複雑さや説得力に欠けると批判されてきたが、グラッドストーンは彼が一緒に仕事をしてきたなかで最も直感的で巧みな演じ手で、モリーの描写は上出来だ。
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