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警察すら動かない「日本の沈黙」が助長させた...「堕ちた帝国」の進むべき道とは?

The Rise and Fall of a Dynasty

2023年9月11日(月)14時00分
ロブ・シュワルツ(ビルボード誌記者、元東京支局長)

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日本の音楽業界に君臨した喜多川は2019年7月に死去 YUICHI YAMAZAKI/GETTY IMAGE

喜多川のインタビュー

こうした空気を感じていたから、2012年に喜多川にインタビューすることになったとき、正直なところ私は不安だった。

取材を手配したのはジャニーズ事務所の社員ではなかったが、インタビューでは喜多川自身と事務所に関する性加害・パワハラ疑惑には一切触れないようにとクギを刺された。それが取材の条件だった。

しかも相手は業界に君臨する帝王だ。威圧的で傲慢な男で、外国人記者をなめてかかるかもしれない。アメリカのCEOはたいがいそうだし、アメリカ生まれの喜多川もそうだろうと思った。

私は事前に業界関係者や有力な幹部らから喜多川と事務所について情報を得ようとした。褒めたいならいくら褒めても構わない。だが、まるで箝口令が敷かれたように誰もが黙り込む。

喜多川と事務所は沈黙の壁に守られているようだった。メディアも含め、この沈黙こそが喜多川の犯罪を許したのだ。彼は正常な社会の枠外に置かれていた。

もっとも実際に会ってみると、喜多川は私の予想を完全に裏切る人物だった。優しい雰囲気で、気弱かと思うほど、尊大さのかけらもない。気取らず、威張らず、物柔らかで礼儀正しい。

ただ、コミュニケーションがうまくいかない場面もあった。私は日本語で質問し、日本語で答えてもらおうとしたが、喜多川は英語で答えることにこだわった。

若い頃と違って、彼はだいぶ英語を忘れたらしく、良くてもカタコト、場合によっては意味不明な返答しか得られなかった。認知能力の衰えもあったのかもしれない。これといった理由もなく、話の途中で言葉が途切れ、何の話か分からなくなることもあった。

インタビューでの喜多川の印象は意外なものだったが、この点は事務所運営の実態を知る手がかりと言えそうだ。ジャニーズ事務所は、ドラマの出演者から主題歌までありとあらゆることを指示、もしくは「強く推薦」してきたように見えるが、喜多川自身は黒子に徹していた。

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