「美しいもの」を遺したロックンロールの女王、ティナ・ターナー──卓越した才能と技術
A Singer’s Singer
60年代から半世紀以上、比類なき歌唱力で世界を圧倒したターナー PAUL BERGENーREDFERNS/GETTY IMAGES
<パワフルな歌とパフォーマンスで音楽界に君臨したティナ・ターナーの異才を偲ぶ>
プロアマを問わず、ティナ・ターナーの名前を聞いて畏敬の念を覚えない歌手はいないだろう。
ターナーは歌手の中の歌手、数々の名曲を生んだソングライターにして最高のダンサーだった。ローリングストーン誌の「史上最も偉大なアーティスト100組」に選出されるにふさわしい、究極のエンターテイナーだった。
ターナーが83歳でこの世を去ったのは5月24日のこと。私は悲しみの中で、あの迫力のボーカルと人を虜(とりこ)にするエネルギー、圧巻のステージパフォーマンスを思いつつ、ターナーの曲を口ずさんだ。
代表曲の「プラウド・メアリー」や「リヴァー・ディープ・マウンテン・ハイ」のほか、「ナットブッシュ・シティー・リミッツ」も歌った。テネシー州の田舎町で過ごした子供時代をノスタルジックに振り返るナンバーだ。
私がターナーの音楽と出合ったのは1980年代半ば。当時、彼女は「愛の魔力(Whatʼs Love Got to Do With It)」や「レッツ・ステイ・トゥゲザー」など、ヒットを連発していた。
その才能とパワーに打たれた私は過去の作品を片っ端から聴き、ソウル、ファンク、そしてロックンロールを取り入れていった60年代の曲に夢中になった。
20代の頃は歌手としてターナーのレパートリーに挑戦したが、体力的にも技術的にも歯が立たなかった。
あのパフォーマンスは控えめに言っても至難の業。完璧な音程とリズムを保ちつつ息をコントロールし、1曲また1曲とダイナミックに歌い続けるだけでもすごい。そこに複雑で激しいダンスが付くのだから、まさに異次元だ。
ターナーのステージはすさまじい努力と途方もないバイタリティーのたまものだった。
試しにカラオケで歌ってみるといい。彼女の曲がどれほど高度なテクニックを必要とするか、すぐに分かるから。
人間の強さを歌い続けて
どんな歌手にとっても、他人の曲を歌うのは難しい。世界にあふれるあまたの名曲から、ターナーは自分が物にできる曲を厳選してカバーした。オリジナルはターナーだとリスナーが勘違いするほど、どの曲も完全に作り変えた。
なかでも「雨に打たれて」(オリジナルはアン・ピーブルズ)や「ザ・ベスト」(ボニー・タイラー)のカバーバジョンは素晴らしい。
ソングライティングの才能はあまり知られていないかもしれないが、よく練られた歌詞は技術と思慮深さをうかがわせた。
72年の『フィール・グッド』は、10曲中9曲がターナーの作詞作曲だ。また73〜77年のアルバムは、彼女が全面的に作曲を手がけた。
オリジナルでもカバーでも、ターナーは人間の強さや愛のさまざまな側面を歌った。ステージ上だけでなく、最初の夫の暴力に苦しんだ私生活でも、深い精神性と逆境に負けないたくましさを見せつけた。
96年に56歳で発表したアルバム『どこまでも果てしなき野性の夢』に、「いつまでも美しいもの」なる1曲が収録されている。
「どんな命も美しいものを残して消えていく」という歌詞が、ターナーの訃報には悲しくもぴったりだ。
Leigh Carriage, Senior Lecturer in Music, Southern Cross University
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.