小説家トム・ハンクスが描く、「ちょっと美しすぎる」映画の世界
Tom Hanks, Novelist!
ある印象的なセリフのように、「自分が起こした問題より多くの問題を解決する」ことができればヒーローになれる。
映画制作に関するそうした昔ながらの感覚は、ハンクスの最近のキャリアと同じように、古いハリウッドと新しいハリウッドのはざまで翻弄されている。
『マスターピース』の登場人物は往年のヒーローを偶像化する一方で、新型コロナウイルスの感染対策ガイドラインを守り、高価なCG画像に依存して、有害なファンから自分の身を守ろうとする。
『ナイトシェード』は、ハリウッドのどの時代にも存在し得ないユニコーン(幻の一角獣)のような作品だ。スーパーヒーローもので、マーベルのような一大メディア・フランチャイズの一部だが、ストリーミング配信向けに作られている。
脚本も手がける監督のジョンソンは、1986年のスティーブン・スピルバーグのような経歴の持ち主だ(つまり、絶賛された大ヒット作が複数あって、アカデミー賞にノミネートされ、悪名高い失敗作が1本あり、業界で大いに尊敬されている)。
俳優は迫真の演技をし、スタッフは未編集の映像を見て涙を流す。監督がついに仕上げたファイナルカットは、(あり得ないことに)2時間以内に収まっている。
ハンクスが描く現場には、親の七光の若者も、とんでもなく嫌な奴もいない。脚本家はストライキをせず、スタジオのお偉方は撮影初日に顔を出すだけ。親切で忍耐強いプロフェッショナルたちが手を携えて魔法を起こす。
「小さな人々」の物語
ハンクスは明らかに、自分が撮影現場の高潔の士であることを誇りにしている。
日々自分の役割を果たし、時間どおりに現れ、「小さな人々」に気を配る。メークアップアーティストや制作アシスタント、助演俳優など小さな人々の話こそ、この小説にちりばめられた最も楽しい瞬間だ。
ただし、ハンクスは新しい登場人物を紹介する際に、その人生を8ページかけて説明せずにいられない。小説の最初の100ページは、『フォレスト・ガンプ/一期一会』のように行きつ戻りつ20世紀の流れを表面だけさらりとなでる。
ようやく『ナイトシェード』撮影に話が進むと、小説で唯一の悪役らしい悪役、人気俳優のO・K・ベイリーが登場する。気難しいベイリーは映画職人と折り合いが悪い。