最新記事
小説

小説家トム・ハンクスが描く、「ちょっと美しすぎる」映画の世界

Tom Hanks, Novelist!

2023年5月27日(土)11時25分
ダン・コイス(スレート誌エディター)

ある印象的なセリフのように、「自分が起こした問題より多くの問題を解決する」ことができればヒーローになれる。

映画制作に関するそうした昔ながらの感覚は、ハンクスの最近のキャリアと同じように、古いハリウッドと新しいハリウッドのはざまで翻弄されている。

『マスターピース』の登場人物は往年のヒーローを偶像化する一方で、新型コロナウイルスの感染対策ガイドラインを守り、高価なCG画像に依存して、有害なファンから自分の身を守ろうとする。

『ナイトシェード』は、ハリウッドのどの時代にも存在し得ないユニコーン(幻の一角獣)のような作品だ。スーパーヒーローもので、マーベルのような一大メディア・フランチャイズの一部だが、ストリーミング配信向けに作られている。

脚本も手がける監督のジョンソンは、1986年のスティーブン・スピルバーグのような経歴の持ち主だ(つまり、絶賛された大ヒット作が複数あって、アカデミー賞にノミネートされ、悪名高い失敗作が1本あり、業界で大いに尊敬されている)。

俳優は迫真の演技をし、スタッフは未編集の映像を見て涙を流す。監督がついに仕上げたファイナルカットは、(あり得ないことに)2時間以内に収まっている。

ハンクスが描く現場には、親の七光の若者も、とんでもなく嫌な奴もいない。脚本家はストライキをせず、スタジオのお偉方は撮影初日に顔を出すだけ。親切で忍耐強いプロフェッショナルたちが手を携えて魔法を起こす。

「小さな人々」の物語

ハンクスは明らかに、自分が撮影現場の高潔の士であることを誇りにしている。

日々自分の役割を果たし、時間どおりに現れ、「小さな人々」に気を配る。メークアップアーティストや制作アシスタント、助演俳優など小さな人々の話こそ、この小説にちりばめられた最も楽しい瞬間だ。

ただし、ハンクスは新しい登場人物を紹介する際に、その人生を8ページかけて説明せずにいられない。小説の最初の100ページは、『フォレスト・ガンプ/一期一会』のように行きつ戻りつ20世紀の流れを表面だけさらりとなでる。

ようやく『ナイトシェード』撮影に話が進むと、小説で唯一の悪役らしい悪役、人気俳優のO・K・ベイリーが登場する。気難しいベイリーは映画職人と折り合いが悪い。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英企業信頼感、1月は1年ぶり低水準 事業見通しは改

ビジネス

基調物価の2%上昇に向け、緩和的な金融環境を維持=

ワールド

米運輸長官、連邦航空局の改革表明 旅客機・ヘリ衝突

ビジネス

コマツの4ー12月期、営業益2.8%増 建機販売減
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 8
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 9
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 10
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 5
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中