「不快だけど目が離せない」──サイレント映画業界を描く『バビロン』がちょっと残念な理由
An Elephant of a Movie
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大胆で奔放なネリーは一躍有名になるが PARAMOUNT PICTURESーSLATE
<初期の映画業界を手放しで大絶賛する映画が多い中、その風潮にまったく迎合しない『バビロン』。壮大な物語だが、人物描写に難が...>
大量のふんを噴き出すゾウ、肥満した大物俳優との放尿プレーに呼ばれた若手女優──。
黄金期のハリウッドを描くデイミアン・チャゼル監督の新作映画『バビロン』の幕開けは、排泄物でいっぱいだ。これこそ、上映時間3時間を超える壮大な本作の「主題」でもある。初期の映画界を称賛ムードで回顧する多くの作品と違い、『バビロン』はお上品でも迎合的でもない。
チャゼルの狙いは、米開拓時代の面影を残すエネルギーと、映画という新しいメディアが20世紀にもたらした社会変革を呼び起こすことだ。多くの面で、この試みは成功している。おかげで、物語の一貫性や深みのある人物描写が犠牲になっているとしても。
本作はいわば、排便中のゾウのような映画だ。巨大で、しばしば不快感を誘うが、目を背けることは難しい。
物語の舞台は、サイレント映画がトーキーに移行し始める1920年代。メキシコ出身の労働者、マニー・トレス(ディエゴ・カルバ)はハリウッドの邸宅で開かれるパーティーに、ゾウを連れて行く仕事を引き受ける。
これがきっかけで、サイレント映画の大スターであるジャック(ブラッド・ピット)の助手として、マニーは夢見ていた映画業界に足を踏み入れる。
ヒロインの描写に「?」
撮影現場でのトラブルを創意工夫で解決するマニーは、やがてプロデューサーの座を手にする。彼が憧れ続けているのが、新人女優のネリー・ラロイ(マーゴット・ロビー)だ。
ざっと描かれる過去によれば、貧困とトラウマからはい上がったネリーは、往年の女優クララ・ボウを思わせる奔放なセックスシンボルとして人気をつかむ。