成熟し、進化を遂げるサウンド──夜更けが似合うアークティック・モンキーズの新アルバム
Another Change in Direction
待望の新作『ザ・カー』も前作に続いて期待を鮮やかに裏切るサウンドが詰まっている ZACKERY MICHAEL
<音源をCDに焼いてライブで配り、インターネットで口コミで広がったことは、今や伝説に。結成20年を迎え、エレガントな新作はさらなる進化を感じさせる>
2018年、アークティック・モンキーズが通算6枚目のスタジオアルバム『トランクイリティ・ベース・ホテル・アンド・カジノ』をリリースすると、ファンはその変貌に仰天した。
アークティック・モンキーズといえば、ハードなギターがトレードマークのロックバンドだった。それが『トランクイリティ』ではバート・バカラックやビーチ・ボーイズを連想させるサイケやラウンジポップを取り入れ、ギターよりもピアノを前面に出したのだ。
だが劇的な方向転換にもファンの気持ちは揺らがなかったようで、『トランクイリティ』は前5作に続き、イギリスのヒットチャートで1位を獲得した。
次は元のサウンドに回帰するのではと、ファンは期待したかもしれない。だがそうした期待に縛られず、さらなる進化を遂げようとするイギリス・シェフィールド出身4人組──アレックス・ターナー(ボーカル・ギター)、マット・ヘルダーズ(ドラム)、ニック・オマリー(ベース)、ジェイミー・クック(ギター)──の決意は固い。
10月21日に発表された7枚目の『ザ・カー』にも、『トランクイリティ』の夜更けが似合うサイケデリックでエレガントな雰囲気は引き継がれた。今回はストリングスとホーンを使い、前作よりも緩やかで、浮遊感と広がりのあるサウンドに仕上がっている。
「新作に取り掛かるときは、前とは全く違う音楽をつくろうと意気込む」と、フロントマンのターナーは語る。
「でも新しいアルバムができてみると、前の作品が溶け込んでいることに気付かされる。こうして『ザ・カー』をつぶさに振り返ると、つくづく前作の影響を感じるよ。今までしてきたことから離れようとしても、過去の余韻は残る。それが未踏の地を目指す僕らの足を引っ張らなければいいのだが」
「別れ」の表現も型破り
プロデュースは、ハイムやフォールズなどを手掛ける盟友ジェームズ・フォードが担当した。一聴すると(『ヤング・アメリカンズ』から『ステイション・トゥ・ステイション』時代の)デヴィッド・ボウイ、セルジュ・ゲンズブール、ニック・ケイブ、スコット・ウォーカーに1970年代のR&Bやポップ色が強いグラムロックが思い浮かぶ。
それでもやはり、これは紛れもなくアークティック・モンキーズのサウンドだ。
「最近はほかのアーティストと自分の間に線を引くのが、前より難しくなった気がする」と、ターナーは言う。