セレーナ・ゴメス、復帰への狼煙──身も心も憔悴したスターの素顔が問いかけるものとは?
A Look at Selena and Us
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人気の頂点で難病を患い、さらに心のバランスを崩したゴメスの6年を追う APPLE TVーSLATE
<「望んだものをすべて手に入れたせいで、私は死んだ」相次ぐ苦難から再起への軌跡を追った、セレーナ・ゴメスのドキュメンタリー。その生々しさが突きつけたものは...>
「約束させて。人生で最も暗い秘密を打ち明けると」
ポップスター、セレーナ・ゴメス(30)をめぐるドキュメンタリーは、彼女のこんな一言で幕を開ける。
同様の約束なら、デミ・ロバートもビリー・アイリッシュも口にした。ドキュメンタリーでありのままの生活や素顔を見せると誓ったセレブは、ほかにも大勢いる。だが、ゴメスのように約束を守るケースは珍しい。
アレック・ケシシアン監督(『イン・ベッド・ウィズ・マドンナ』)の『セレーナ・ゴメス:My Mind & Me』は、2016年から始まる。当時ゴメスはアルバム『リバイバル』を発表し、ライブツアーに乗り出そうとしていた。
満員御礼のスタジアムも黄色い声を上げるファンも、音楽ドキュメンタリーではお決まりの光景だ。だがコンサートを中心に据えるのかと思いきや、この作品はすぐに方向性を変える。
映し出されたゴメスは憔悴し、ステージ衣装から歌唱力まであらゆることに自信を失っている。
ステージで「あなたが完璧じゃないなんて誰が言った?」と歌い観衆を鼓舞するのが嘘のように、楽屋では「私と契約したのを後悔していないといいんだけど」とレコード会社の担当に弱音を吐いて、涙を拭う。
程なくして心身の不調を理由にツアーは中止に追い込まれた。神経衰弱で精神科に運ばれたゴメスは「変わり果てていた」と、当時のアシスタントは振り返る。
カメラの前にゴメスが戻るのは19年。それまでに彼女は自己免疫疾患の全身性エリテマトーデスと闘い、腎臓の移植手術を受け、鬱病に苦しみ、双極性障害と診断された。
アップルTV+で配信中の『My Mind & Me』は、最近のトレンドに乗りアーティストのもろさに焦点を当てる。
ソーシャルメディアで有名人と交流できるようになると、ファンはどんどん貪欲になった。
私生活のチラ見せではもう足りない。ネガティブな面も全て暴露しなければ満足しない。もろさをさらけ出すことでファンの心をつかんだゴメスは、この手のドキュメンタリーに適任に思える。