セレーナ・ゴメス、復帰への狼煙──身も心も憔悴したスターの素顔が問いかけるものとは?
A Look at Selena and Us
作り手がどれほど誠実な姿勢で臨んでも、ドキュメンタリーは基本的に創作された物語だ。
『HOMECOMING ビヨンセ・ライブ作品』や『ジェニファー・ロペス:ハーフタイム』のようにあまり演出を加えず、コーチェラ・フェスやスーパーボウルの大舞台の裏側に迫ったものもある。
ビヨンセは出産後の生活とキャリアをたどる13年の『ライフ・イズ・バット・ア・ドリーム』で監督・製作・ナレーションを手掛け、自分の見せ方をしっかり管理した。
一方ネットフリックスの『jeen-yuhs: カニエ・ウェスト3部作』のように、率直なアプローチがアーティストの怒りを買うケースもある。
日記を読むゴメスを美しいモノクロ映像で映すなど、『My Mind & Me』にも演出は見られる。だが時に痛ましささえ感じるほど、全体として生々しい仕上がりだ。
ゴメスが名声との葛藤を語るのを聞けば、胸がつぶれそうになる。その姿はどうしても、名声の絶頂で悲劇的な死を遂げた同じテキサス出身の歌手セレーナと重なる。2人とも芸能活動に子供時代をささげ、アイデンティティーとイメージの齟齬や自分を見せ物にする代償の重さに悩んだ。
夢は全部かなえたけれど
ゴメスは7歳から子役として活動し、ディズニー・チャンネルのドラマでブレイクした。大人になったのはSNS全盛期で、世間の詮索はエスカレートする一方だった。
「望んだものは全て手に入れ、夢も全部実現させた。でもそのせいで私は死んだ。常にセレーナ・ゴメスでいなければならなかったから」と、彼女は日記につづる。
明るい場面がないわけではない。チャリティー活動で学校の設立に協力したケニアや故郷テキサスにいるときのゴメスは、生き生きと輝いている。ファンもパパラッチもいない場所で少女に戻り、一方で大人の女性らしい満ち足りた表情を見せる。
「故郷に帰ると、必ず思い出の場所を訪ねる。自分のそうした部分を失いたくないから」と、ゴメスは語る。
カメラは本格的なカムバックに挑んだ20年のゴメスを追いながら、名声のすさまじい重圧をあぶり出す。
3枚目のアルバム『レア』の宣伝活動を控え、ゴメスはホテルの一室にいる。時差ぼけでうとうとしている彼女にスタッフが群がり、髪や爪を整える。これからゴメスは数日間、マスコミの取材をまとめて受けるのだ。