最新記事

英語

イチローの英語が流暢なら、あの感動的なスピーチは生まれなかったかもしれない

2022年10月21日(金)17時04分
岡田光世
イチロースピーチ

マリナーズ球団殿堂入り式典でスピーチするイチロー(2022年8月) Steven Bisig-USA TODAY Sports-Reuters

<聞く人の心を揺さぶる名スピーチは、必ずしもよどみなく流暢に語られたものではない。それは、日本人が英語を話す際の心構えとしても知っておきたいことだ>

「あなた」──。安倍晋三元首相の大きな遺影を見上げ、声を震わせながら恋人のように語りかける。自らも「総理」だったのに、「総理」と震える声で呼びかけ、慕い敬い続けた人へ最期の別れを告げる。安倍元首相の国葬儀で友人代表として読んだ菅義偉前首相の弔辞が、多くの国民の心を揺さぶった。菅氏の沸き出る思いに満ちた、朴訥で口下手な菅氏らしい、“菅氏だけ” の弔辞だったからだ。

歴史に残る名演説・名スピーチは、必ずしもよどみなく流ちょうに語られたものではない。これは英語でのスピーチでも、同じだ。その例として、日本だけでなく米大リーグでも輝かしい実績を残したイチロー氏が、今年8月に行ったスピーチを紹介したい。

※以下は筆者が「東京書籍」のWEBサイトNEW HORIZON「英語の広場」で連載している『英語って、生きている!』(岡田光世)の第4回「イチローの英語は、イチローにしか話せない」(2022年9月)からの転載です。

◇ ◇ ◇


“What's up, Seattle!?”
(シアトルのみんな、元気か!?)

こう絶叫して始まったスピーチ。イチロー氏はこのひと言で、会場の4万5千人を超える観衆を大歓声で沸かせると、笑いと涙の具体的なエピソードを織り交ぜ、最後の最後まで心をつかんで離さなかった。

8月27日(現地時間)、イチロー氏は米大リーグ、シアトル・マリナーズ球団殿堂入り式典で、16分間のスピーチをすべて英語で堂々と行った。

彼の言葉はプロのスポーツ選手としての情熱と哲学に満ち、チームの仲間や関係者、通訳とその家族、ファン、妻など、自分を支えてくれた人たちへの感謝の思い、彼のあとに続く若手選手への鼓舞と激励、シアトルへの愛にあふれていた。

イチロー氏はマリナーズの会長付特別補佐兼インストラクターとして、今もユニホームを着て、選手の練習に立ち合っている。

イチロー氏のスピーチを聴きながら、思った。新刊『ニューヨークが教えてくれた “私だけ” の英語 “あなたの英語” だから、価値がある』のタイトルに私が込めた思いは、まさにこれだ、と。

イチロー氏の英語は、彼にしか話せない、“彼だけ” の英語。“イチロー氏の英語” だから、価値がある。

あのスピーチは、イチロー氏そのものだった。スピーチライターがいたとは思うが、彼自身の具体的なエピソードを笑いとともに織り交ぜ、練りに練った内容だった。彼らしく「完璧」を目指してストイックに、発音から話し方、間の取り方まで、徹底的に練習したはずだ。

■【動画】丁寧に誠実に言葉を紡ぎ、観衆に大きな感動を呼んだイチローのスピーチ

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国の銀行、ドル預金金利引き下げ 人民銀行が指導=

ビジネス

イオン、イオンモールとディライトを完全子会社化

ビジネス

日経平均は大幅反落、一時3万7000円割れ 今年最

ワールド

インドネシア中銀が為替介入、ルピア対ドルで5年ぶり
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:破壊王マスク
特集:破壊王マスク
2025年3月 4日号(2/26発売)

「政府効率化省」トップとして米政府機関に大ナタ。イーロン・マスクは救世主か、破壊神か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 3
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身のテック人材が流出、連名で抗議の辞職
  • 4
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 5
    日本の大学「中国人急増」の、日本人が知らない深刻…
  • 6
    東京の男子高校生と地方の女子の間のとてつもない教…
  • 7
    富裕層を知り尽くした辞めゴールドマンが「避けたほ…
  • 8
    老化は生まれる前から始まっていた...「スーパーエイ…
  • 9
    【クイズ】アメリカで2番目に「人口が多い」都市はど…
  • 10
    令和コメ騒動、日本の家庭で日本米が食べられなくな…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 3
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チームが発表【最新研究】
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    障がいで歩けない子犬が、補助具で「初めて歩く」映…
  • 6
    富裕層を知り尽くした辞めゴールドマンが「避けたほ…
  • 7
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身…
  • 8
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    東京の男子高校生と地方の女子の間のとてつもない教…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 10
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中