香川照之、降板ラッシュよりも痛い最大の痛恨 「ヒール」は演技ではなく本当の姿?
また、トヨタ自動車ほかCM起用している企業は緊急対応に追われていますし、芸能界や歌舞伎界は「乱れているのでは」「時代錯誤」などのイメージを与えてしまったのも事実。「問題を起こしても被害者と示談できれば終わり」ではなく、「もし話が漏れたら」というリスクは長年つきまとうものです。その意味で、自分の行為が周囲の人々に迷惑をかけるリスクを甘く見ていたことは否めないでしょう。
冷静な目で見れば、今回の行為は不倫よりも卑劣であり、批判を受けるだけでなく、犯罪とされるリスクがあることがわかるはずです。そんな誰もがわかりそうなことがわからなかったのはなぜなのでしょうか。それは香川さんが、成功者であることや大金を得ていることを自ら実感していたからでしょう。
今回の行為は、ただ性的欲求が強い人のものというより、「俺は選ばれた人間だからこれくらいはいいだろう」「高いお金を払える人間なんだからこれくらい我慢しろ」という選民意識を感じさせるものでした。成功することや大金を得ることで人柄や言動が変わってしまう。残念ながら芸能人に限らずビジネスパーソンの中にもそういう人は多く、その立場になってみないとわからないところもあるだけに、決して他人事ではないのです。
安全策でピンチを招いたテレビ朝日
最後にビジネスシーンで参考になりそうな、もう1つの「痛恨」をあげておきましょう。
それはテレビ朝日が香川さんをドラマ「六本木クラス」に起用したこと。香川さんは主人公が復讐を誓う最大の敵・長屋茂を演じています。いわゆる「ラスボス」にあたる巨悪であり、「土下座」がキーワードの作品でもあるだけに、キャスティングが発表されて以降、「『半沢直樹』のパクリ」などの声があがっていました。
香川さんは「半沢直樹」に限らずTBSの作品で何度も悪役を演じてきただけに、そんな声があがるのは仕方がないでしょう。つまり、制作サイドはそれを承知で「悪役」というイメージの強い香川さんを起用したのです。しかし、安全策を採ったつもりが、現在「なぜ降板させないのか」などと批判を受ける事態を招いてしまいました。
現時点で代役を立てて撮り直すことは不可能であり、「このまま放送するか」「放送をやめるか」の2択しかなく、しかもどちらを選んでも批判必至。それだけに関係者への影響を最小限にとどめられる「このまま放送する」ことを選んだのでしょう。
ただ批判以上にビジネスとしてもったいなかったのは、"自社専属の悪役俳優"を作るチャンスを逃してしまったこと。異例の全13話で放送するなど局をあげた大作の「六本木クラス」は、「TBSの悪役=香川照之」のようなイメージの悪役をテレビ朝日でも作る絶好のチャンスでした。しかし、テレビ朝日は安全策を採ったことで、そのチャンスを自ら手放してしまったのです。
同作は6話連続で視聴率が上がるなど、中盤から終盤に向けて盛り上がってきたタイミングだけに香川さんの騒動はまさに痛恨。「ビジネスに本当の意味での安全策はないこと」「大きなビジネスこそ安全策を採らずチャレンジしたほうがいいこと」などの教訓を得られたような気がしました。
木村隆志(きむら たかし)
コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者
テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。