時代遅れになるボリウッド コロナ禍と動画配信の台頭で興行不振
インドのヒンドゥー語映画産業「ボリウッド」は壊れているかもしれない。ニューデリーの映画館前で8月撮影(2022年 ロイター/Adnan Abidi)
インドのヒンドゥー語映画産業「ボリウッド」は壊れているかもれしれない。彼ら自身がそのことを認識している。
大スクリーンで全編にわたって素晴らしい歌とダンスが繰り広げられるボリウッド映画は厳しい現実から逃れられる娯楽として、インド国民や世界中の人々を長らく魅了してきたが、最近は興行面で不振が続いている。
兄と妹たちのきずなを描いた新作「ラクシャバンダン」の興行成績がさっぱりだったことを受け、ボリウッドの大スターで主演を務めたアクシャイ・クマールさんは先月記者団に「映画がうまくいっていない。これはわれわれ、そして私の責任だ。私はいろいろと変えなければならないし、観客が何を望んでいるか理解する必要がある。私の映画はこうあるべきという概念をたたき壊したい」と胸の内を語った。
実際、インド現代文化の1つの柱だったボリウッドは曲がり角を迎え、その輝きは色あせつつある。
特に若い世代は多くのボリウッド映画を時代遅れで「格好悪い」とみている。そこに折あしく登場してきたのがネットフリックスやアマゾン・プライムといった動画配信サービスだ。
業界データを分析するウェブサイト「コイモイ」によると、今年公開されたボリウッド映画26本のうち何と20本(77%)は、収入が投資額の5割かそれ以下にとどまった「失敗作」になった。2019年の失敗作の比率はその半分程度だったが、新型コロナウイルスのパンデミックによって社会が一変し、何十年もボリウッド映画の主な収入源だった映画館から人々が遠ざかってしまった。
ボリウッドの拠点ムンバイで暮らす女性で、2人の10代の娘を持つクリスティナ・スンダレサンさん(40)はパンデミック発生前まで、最低でも週に1回は映画館でボリウッド映画を楽しんでいたにもかかわらず、今は滅多には足を向けない。「笑いが必要な時にボリウッド映画は向いているけれど、もうわざわざ映画館に鑑賞には行かない。昔はどの映画にも一緒についてきた娘たちも、動画配信プラットフォームで韓国のショーやドラマにはまっている」という。
海外の動画配信サービスに流れたのは彼女らだけではない。ネットフリックスとアマゾン・プライムがインドでサービスを開始したのは2016年と比較的最近だが、欧米やインド、その他アジアで制作された「パラサイト 半地下の家族」「アベンジャーズ」「イカゲーム」などさまざまな人気作品を提供している。
市場データ会社スタティスタの分析では、19年にインド国民14億人の約12%だった動画サービス利用者は足元で25%に増加している。この比率は27年までに31%する見通しで、さらに上振れる余地もある。例えば北米では利用率はおよそ80%に達しているからだ。
時代への順応必要
インドの映画興行収入はでは19年まで毎年着実に増加し、同年には20億ドル前後に達した。その後パンデミックで落ち込み、現在も持ち直す気配は乏しい。
今年3月以降、興行成績は毎月悪化し続けている。投資銀行エララ・キャピタルの調査に基づくと、特にボリウッド映画は7-9月期に45%の減収が予想される。