在日コリアンの苦難を描く『パチンコ』を、「反日ドラマ」と切り捨てていいのか
The People Endured
チョン・ユナが演じている主人公ソンジャの幼少期 APPLE TV+
<韓国系作家がアメリカで発表したヒット小説のドラマ版は、過去に責任のない現代人が、過去を知ることの大切さを訴える意欲作>
アップルTV+で配信中の『Pachinko パチンコ』は異色のドラマ。日本の植民地政策と在日韓国・朝鮮人のアイデンティティーというテーマに、正面から挑んでいる。
1910年、日本は大陸進出の一環として韓国を併合した。このため朝鮮半島では後に多くの人々が強制労働で日本の経済を支え、慰安婦として日本軍に徴用された。あるいは貧困から抜け出す機会のない祖国を離れ、追われるようにして国外に出た。
第2次大戦が終結して日本の統治が終わる頃、もう祖国は存在していなかった。アメリカとソ連が朝鮮半島を分割占領したからだ。
それでも、ドラマの幕開けでテロップが語るように、「人々は耐え忍んだ」。
原作は、韓国系アメリカ人作家ミン・ジン・リーの同名小説。『パチンコ』はある家族を中心に、植民地支配が韓国・朝鮮人に及ぼしてきた影響を約70年間にわたってあぶり出し、植民地主義が差別意識として根強く残る現状を浮き彫りにする。
主人公のソンジャは、釜山の下宿屋の娘。朝鮮人ヤクザのハンスとの出会いが、貧しい彼女の運命を変える(若き日のソンジャを新星キム・ミンハ、晩年を『ミナリ』のユン・ヨジョンが演じている)。
植民下の暮らしは厳しい。食料は乏しく、日本の警官には手荒い扱いを受ける。
31年、16歳のときに妻子あるハンスの子を妊娠したことで、ソンジャの人生は一変する。事情を知る若い牧師イサクのプロポーズを受け入れ夫婦で大阪に渡るのだが、日本は希望の地には程遠かった──。
ソンジャの体験は、デマが発端となって多くの命が奪われた関東大震災(23年)直後の朝鮮人虐殺などの出来事と共に回想形式で描かれる。
エリートとして日本に帰国した3世
小説と異なり、ドラマではソンジャの孫で在日3世のソロモンの視点からストーリーが展開する。
ソロモンの人生はソンジャとは対照的だ。彼はアメリカの大学を出て銀行に就職したエリート青年で、89年に大規模な地上げ交渉をまとめるためにアメリカから帰国する。
東京であるホテルの建設計画が進み、土地の買収はほぼ終わったのだが、いくら大金を積んでも立ち退きを拒む家が1軒ある。地権者で在日1世の女性グムジャは、この家で余生を思いどおりに過ごすと決めているのだ。
ソロモンはグムジャを口説き落とそうと自身の在日のルーツをアピールし、さらには祖母に応援を頼む。
3人はグムジャの家で食卓を囲み、老女2人は故郷を懐かしむ。2人は20~30年代に日本に渡った世代。ほぼ一生を過ごしてきた日本で、今もその国籍を持たずに暮らしている。