最新記事

ドラマ

在日コリアンの苦難を描く『パチンコ』を、「反日ドラマ」と切り捨てていいのか

The People Endured

2022年5月19日(木)18時04分
アリシア・ハディック

220524p52_PCK_03.jpg

晩年のソンジャはユン・ヨジョンが演じる APPLE TV+

昔話を聞きながら、ソロモンは祖母ソンジャが日本でなめた辛酸を思い知る。在日韓国・朝鮮人が払った犠牲を知り、土地を売ることを渋るグムジャの心情を理解する。やがてグムジャは買収に応じるが、ソロモンは土壇場で契約書に署名するのをやめさせ、銀行を解雇される。

日本政府は戦争や植民地政策をめぐり、韓国に謝罪してきた。93年と2015年には日本軍の慰安婦にされた女性たちに謝罪し、金銭的な償いもしている。

だが蛮行の責任を半世紀近くも取ろうとしなかった日本側の姿勢や、被害者とその家族が味わった苦痛を差し引いても、緊張が解けない要因はたくさんある。

与党・自民党内には謝罪の撤回を試みたり戦争責任を否定したりする動きがあり、歴史教科書は日本による戦時中の加害をきちんと取り上げない。さらに「在日特権を許さない市民の会(在特会)」のようなヘイト団体が、今も在日韓国・朝鮮人や朝鮮学校に嫌がらせを繰り返す。

ドラマで描かれるように、朝鮮半島で人々が受けた不当な仕打ちは、彼らが日本に移り住んでからも続いた。

賃金のいい仕事には就けず、スラムの劣悪な環境で暮らすしかなかった。組織犯罪に走る者、パチンコ店の経営など日本人があまり関心を持たない仕事に従事する者も少なくなかった。賭博との関連から、パチンコは法律のグレーゾーンに位置している。

一部に暴力団や犯罪と関わりのある者がいたせいで、在日全体に悪いイメージが付いた。「在日は犯罪者」といういわれのないレッテル貼りは、韓国のポップカルチャーが人気を集める現在の日本でも嫌韓意識を助長する要因だ。

日本では「黙殺」された原作

小説『パチンコ』は17年にアメリカで発表されてベストセラーとなり、日本では20年7月に邦訳が文藝春秋から出版された(韓国語版は18年に発売され、今年4月に韓国でベストセラーリストの1位に躍り出た)。

しかし邦訳が出るまで、日本の大手メディアは『パチンコ』をおおむね無視した。この小説について日本語で読むことができるのは、オンライン雑誌クーリエ・ジャポンが転載したニューヨーク・タイムズ紙による著者リーのインタビューと、ニューズウィーク日本版(ウェブサイト)が掲載した渡辺由佳里のコラムくらいだった。

ドラマ版に対しても、日本メディアの反応は鈍い。韓国・中央日報の日本語版は、『パチンコ』を「歴史歪曲の反日ドラマ」と批判するネット上の声について報じている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日本の働き掛け奏功せず、米が相互関税24% 安倍元

ワールド

ロシアが企業ビル爆撃、4人死亡 ゼレンスキー氏出身

ビジネス

米関税24%の衝撃、日本株一時1600円超安 市場

ワールド

米連邦地裁、収賄疑惑のNY市長の起訴棄却 政権の「
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    アメリカで「最古の銃」発見...いったい誰が何のため…
  • 10
    トランプ政権でついに「内ゲバ」が始まる...シグナル…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中