在日コリアンの苦難を描く『パチンコ』を、「反日ドラマ」と切り捨てていいのか
The People Endured
昔話を聞きながら、ソロモンは祖母ソンジャが日本でなめた辛酸を思い知る。在日韓国・朝鮮人が払った犠牲を知り、土地を売ることを渋るグムジャの心情を理解する。やがてグムジャは買収に応じるが、ソロモンは土壇場で契約書に署名するのをやめさせ、銀行を解雇される。
日本政府は戦争や植民地政策をめぐり、韓国に謝罪してきた。93年と2015年には日本軍の慰安婦にされた女性たちに謝罪し、金銭的な償いもしている。
だが蛮行の責任を半世紀近くも取ろうとしなかった日本側の姿勢や、被害者とその家族が味わった苦痛を差し引いても、緊張が解けない要因はたくさんある。
与党・自民党内には謝罪の撤回を試みたり戦争責任を否定したりする動きがあり、歴史教科書は日本による戦時中の加害をきちんと取り上げない。さらに「在日特権を許さない市民の会(在特会)」のようなヘイト団体が、今も在日韓国・朝鮮人や朝鮮学校に嫌がらせを繰り返す。
ドラマで描かれるように、朝鮮半島で人々が受けた不当な仕打ちは、彼らが日本に移り住んでからも続いた。
賃金のいい仕事には就けず、スラムの劣悪な環境で暮らすしかなかった。組織犯罪に走る者、パチンコ店の経営など日本人があまり関心を持たない仕事に従事する者も少なくなかった。賭博との関連から、パチンコは法律のグレーゾーンに位置している。
一部に暴力団や犯罪と関わりのある者がいたせいで、在日全体に悪いイメージが付いた。「在日は犯罪者」といういわれのないレッテル貼りは、韓国のポップカルチャーが人気を集める現在の日本でも嫌韓意識を助長する要因だ。
日本では「黙殺」された原作
小説『パチンコ』は17年にアメリカで発表されてベストセラーとなり、日本では20年7月に邦訳が文藝春秋から出版された(韓国語版は18年に発売され、今年4月に韓国でベストセラーリストの1位に躍り出た)。
しかし邦訳が出るまで、日本の大手メディアは『パチンコ』をおおむね無視した。この小説について日本語で読むことができるのは、オンライン雑誌クーリエ・ジャポンが転載したニューヨーク・タイムズ紙による著者リーのインタビューと、ニューズウィーク日本版(ウェブサイト)が掲載した渡辺由佳里のコラムくらいだった。
ドラマ版に対しても、日本メディアの反応は鈍い。韓国・中央日報の日本語版は、『パチンコ』を「歴史歪曲の反日ドラマ」と批判するネット上の声について報じている。