ディズニーキャストが明かす、裏方だけが知っている話
読後も頭から離れないキリンビール時代のエピソード
そういう意味で個人的に最も印象的だったのは、著者が会社員時代に経験したディズニーランドの思い出だ。つまりキャストとしての体験談ではないのだが、読後も頭から離れなくなってしまった。
キリンビールでは、社員が持ち寄った本やCDを社内で販売し、その収益金をもとに児童養護施設の子どもたちを東京ディズニーランドに招待するというチャリティー活動を実施していた。そして、招待した子どもたちは、社員ボランティアたちが同伴してもてなすことになっていた。
「ハロー!ミッキー」と呼ばれるこの活動は、楽しんでボランティア活動ができると好評で、積極的に参加する社員も多かった。(130~131ページより)
著者もこの活動に参加し、ペアになった中学生の男の子とのコミュニケーションに四苦八苦することになる。だが(失礼ながら)、それよりも心に残ったのは後に続く記述だ。
翌日、会社に行くと一緒に「ハロー!ミッキー」に参加した上司が私にこう言った。
「やっぱり彼らも寂しさがあるのかな。私と一緒にアトラクションを回った子が、つないでいた手をぎゅっと握りしめてきたんだよ。なんだか胸がぎゅっと締めつけられてしまってね」(134ページより)
この話は今でも著者の心に残っているというが、つまりはこういった"小さな出来事"こそが、ディズニーランドがもたらしてくれる"大きな意義"なのではないだろうか。
著者のキャスト体験と、そこに付随する過去のボランティア体験は、異なった角度から、読者にそんなことを考えさせてくれる。
『ディズニーキャストざわざわ日記――
"夢の国"にも☓☓☓☓ご指示のとおり掃除します』
笠原一郎 著
フォレスト出版
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[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。ベストセラーとなった『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)をはじめ、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。新刊は、『書評の仕事』(ワニブックス)。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。