ディズニーキャストが明かす、裏方だけが知っている話
キャストは「ゴミを集めている」と言ってはいけない
著者は大学卒業以来、キリンビールで長らくサラリーマン経験を積み上げてきた人物。人間関係のトラブルに巻き込まれて57歳で早期退職したのち、まったく違う分野で仕事をしたいという思いから東京ディズニーランドに準社員として入社した。そして65歳で定年するまで約8年間にわたり、カストーディアルキャストとして勤務したのである。
だが「東京ディズニーリゾートは以前から好きだった」とはいうものの、実際にそこで働くとなると"好き"なだけでは務まらないだろう。事実、「歩くコンシェルジェ」として清掃業務やゲストの案内にいそしむ日常は、戸惑いの連続だったようだ。読者からすれば、そのエピソードが興味深く、そして面白くもあるのだが。
晴れてキャストデビューを果たして2日目のことだった。
オンステージでスイーピング(筆者注:掃き掃除)をしていると、女子高校生とおぼしき2人組のゲストが私に近寄ってきた。
「何をしているんですか?」
「?」
掃除をしていることは見たらわかるだろうと思ったが、質問の意図がわからないまま、とりあえずこう答えた。
「ゴミを集めているんですよ。ポップコーンなんかがあちこちに落ちていますからね」
それを聞いた彼女たちは怪訝そうに顔を見合わせると、そのまま無言で立ち去っていった。(17ページより)
ディズニーファンには有名な話らしいのだが、この質問に対する最もオーソドックスな返答は「夢のカケラを集めています!」なのだという。先輩のベテランキャストからそれを知らされた著者は、翌日早速それを実践してみる。
今度は中学生と思われる3人組の女の子グループだった。ひとりがおずおずと近づいてくると、
「あの、すみません。今、何をしているんですか?」
「ええ、夢のカケラを集めています」
彼女の表情がパッと明るくなったかと思うと、「ありがとうございます」と頭を下げて去っていった。私も彼女たちの思い出作りに協力できたかと思うと、嬉しくなった。(19ページより)
とはいえ、こうした"いい話"はむしろ少ない。著者はゴミの回収をしているとき「ゴミ屋さん!」と声をかけられたり、便器が詰まって個室内が水浸しになったレストルーム(トイレ)を慌ててモップがけしたりと、大きなことから小さなことまで、さまざまな問題に直面するのである。
そうした記述を目にすると、彼らがいるから「夢の国」としての体裁が保たれているのだと実感せざるを得ない。が、さらに印象的なのは、彼ら裏方たちの努力で成り立っている夢の国が、ゲストに与える価値の大きさだ。