ビートルズ最高の作詞家がジョンではなく、ポールであることを伝えたい
The Marvel That Is McCartney
今もなおマッカートニーとレノンが愛されるソングライターなのは2人がタッグを組んで切磋琢磨をしたから BETTMANN-GETTY IMAGES-SLATE
<ジョン・レノンと共に時代を変えたポール・マッカートニーが、全154曲の歌詞を集めた『詩集』で音楽人生を振り返る>
ビートルズの中で一番優れた作詞家はポール・マッカートニーだと主張することに、昔から筆者は偏屈な喜びを感じている。
マッカートニーの歌詞が陳腐、大仰、ナンセンスのそしりを受けているのは、ファンなら誰でも知っている。だが私に言わせればゴリゴリのジョン・レノン派は鼻持ちならない連中だし、ジョージ・ハリスンを推すのは退屈だ。
マッカートニーが実質的に書いた能天気な「ハロー・グッドバイ」とレノンの気取った「アイ・アム・ザ・ウォルラス」の一方を選べと言われたら、私は迷わず前者を選ぶ。
とはいえ、「ビートルズで一番○○なのは誰か」という議論は基本的にばかげている。大衆文化においてビートルズほど、複数の才能が大きな相乗効果を発揮した例はない。
今なおマッカートニーとレノンが最も愛されるソングライターなのは、2人がタッグを組んだから。切磋琢磨しつつ、「レノン=マッカートニー」の名義で時代を変える名曲の数々を生んだからだ。
11月に出版された『詩集/1956年~現在』(リブライト社刊)を熟読した結果、私はやはりマッカートニーを推したい。『詩集』は960ページに154曲の歌詞を収録し、一曲ごとにマッカートニーがエッセーを寄せた上下2巻の豪華本。写真や落書き、書簡などのお宝も楽しめる。
曲になじみ過ぎてすごさが分からない
歌詞の味わいは、本で読んでも完全には伝わらない。それがたぐいまれな聴覚の持ち主の作品なら、なおさらだ。マッカートニーの歌詞は傑出した音楽的才能のたまもの。曲に完璧になじんでいて、かえってすごさが分からない。
例えば1965年の「夢の人」。「さっき顔を見たんだ/見た時も場所も僕は忘れない/彼女こそが運命の人、2人の出会いを世界に見せたい」とほとばしる歌詞は、やがてハミングに変わる。2人の出会いを世界に見せたい、とは何と美しい心情だろう。
「オール・マイ・ラヴィング」の「目を閉じてよ。キスしてあげる」ほど、ラブソングの幕開けにふさわしい歌詞があるだろうか。
イメージを呼び覚ますのも(「彼女が手を振るたび僕の人生は変わっていく」=「ヒア・ゼア・アンド・エブリホエア」)、気の利いた格言を繰り出すのも(「愛には一夜で消えるという不愉快な癖がある」=「君はいずこへ」)、マッカートニーの得意技だ。
60年近く世界有数の名声を保ってきただけあり、マッカートニー(79)はセレブの手本だ。驚くほど人当たりがよく、いつもエネルギッシュで腰が低い。一方で魅力の奥には、警戒心が見て取れる。マッカートニーは自伝を書いたことがなく、自分のイメージを入念に操作してきた。