最新記事

アート

圧倒的な謎、東京上空に現れた「巨大な顔」の舞台裏──「目[mé]」とはどんなアーティストか?

2021年12月20日(月)10時55分
岩崎香央理 ※Pen Onlineより転載

謎が謎のまま、世界に存在してもいい

実は『まさゆめ』のプロローグとも言える作品がある。14年、栃木・宇都宮美術館館外プロジェクトとして実施された『おじさんの顔が空に浮かぶ日』でも、実在の人の顔を上空に浮かべたのだ。荒神は言う。

「宇都宮の時もそうでしたが今回もやっぱり、空に顔が上がったのを見て、この光景は圧倒的に"謎"だと思った。つくった自分たちにもはっきりした答えはなく、突き放されるというか、ずっとわからないまま存在している感じ。だけど、きっかけとなる夢を昔見た時から、もしかしたらわからないことを望んでいたのかもしれない。謎は謎のままでいいんだ、と。夢の中でその光景をつくっていた大人の姿に勇気づけられた気持ちが、自分たちの作品で守るべき大事な要素となって、いまも続いています」

pen211220_me3.jpg

市民参加による初めての「顔」作品『おじさんの顔が空に浮かぶ日』宇都宮美術館館外プロジェクト、2013-2014年。宇都宮市内に設けた拠点でモデルを募集しワークショップを経て選出した。 photo:Takao Sasanuma

宇都宮の時と大きく違うのは、誰の顔を、いつ、どこで上げるかといった情報がすべて非公表で進められたため、プロジェクトの根幹が制作以外の部分に大きく委ねられていたことだと、増井宏文は言う。増井は、荒神と南川が発想し言語化したアイデアをどう作品にするか、そのシステムづくりや制作を担うインストーラーとして目[mé]を支えている。

「今回は広報や運営を含め、プロジェクトのさまざまな役割が重要でした。交渉や調整の範囲も広く、手を動かすこと以外でもつくっていく感覚をつかめたので、今後の制作方法にも影響すると思います」

pen211220_me4.jpg

『まさゆめ』で空に浮かべた顔の瞳の部分。制作方法や浮上方法は非公表だが、パラシュート用の素材にプリントが施されている。顔の全体像は直径がビル6階~7階相当の大きさ。 Photo:齋藤誠一

この夏の「顔」騒動で、彼らを初めて知った人も多いだろう。目[mé]とはどんなアーティストなのか? 「現実の不確かさ」を身体感覚へと手繰り寄せて可視化すべく、狂気的なまでに状況をつくり込み、体験させるのが彼らの手法だ。アーティスト・荒神、ディレクター・南川、インストーラーの増井。3人のチームワークから繰り出される作品世界は、体験型アートとひと括りにできるほど生易しくなく、観客はそこに巻き込まれることで、知覚の揺らぎに戸惑い、思考し続ける。

pen211220_me11.jpg

目[mé]●左から、アーティスト荒神明香、インストーラー増井宏文、ディレクター南川憲二。彼らを中心とする現代アートチームで手法やジャンルにこだわらず空間や観客を含めた状況・導線を重視する作品を展開。https://mouthplustwo.me/jp  Photo:齋藤誠一

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中