この時代に再評価される幻の音楽フェス、半世紀前の熱狂がよみがえる
An Ode to Black Music
![ハーレム・カルチュラル・フェスティバル ハーレム・カルチュラル・フェスティバル](https://f.img-newsweekjapan.jp/stories/assets_c/2021/08/210831P50_SOS_02-thumb-720xauto-266886.jpg)
ハーレムの音楽祭ではグラディス・ナイト&ザ・ピップスやスライ・ストーンが観客を熱狂させた SEARCHLIGHT PICTURESーSLATE
<ウッドストックの陰で冷遇されてきた「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」が、『サマー・オブ・ソウル』でよみがえる>
アメリカ文化において、1960年代ほど徹底的に神話化された時代はないだろう。そして、その神話化におそらく何より貢献したのが音楽フェスティバルだ。
ローリング・ストーンズの演奏中に観客が殺害されたオルタモントの野外コンサートがカウンターカルチャーのどん底ならば、ウッドストックはその頂点。もっとも文化的な重要度でいえば、オーティス・レディングやジャニス・ジョプリンをスターにしたモンタレー・ポップフェスティバルのほうが上だろう。
今も残るフェスの影響力と切り離せないのが、音楽ドキュメンタリー映画の存在だ。
『モンタレー・ポップフェスティバル'67』(68年)にはギターを燃やすジミ・ヘンドリックスなど、ロック史に輝く名場面が刻まれた。『ウッドストック/愛と平和と音楽の3日間』(70年)はアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を獲得。オルタモントを記録した『ローリング・ストーンズ・イン・ギミー・シェルター』(70年)はドキュメンタリー映画の最高峰とされる。
この3本でおおむねコンサート映画のスタイルが確立され、題材となったフェスは後の世代の憧れの的となった。
アフリカ系市民を熱狂させた音楽祭
一方で、大成功を収めた69年夏の「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」が、同じ年のウッドストックと同列に語られることはまずない。新作ドキュメンタリー『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』は、そんな冷遇を正す試みだ。
ブラックミュージック界からスライ&ザ・ファミリー・ストーン、ニーナ・シモン、ステイプル・シンガーズにマヘリア・ジャクソンら豪華な顔触れがニューヨーク・ハーレム地区の公園に集結。6~8月の日曜日にアフリカ系市民を熱狂させた音楽祭に、映画は遅まきながら光を当てる。
関係者や観客のインタビューを交え、50年余り眠っていた映像をスクリーンによみがえらせたのはヒップホップグループ、ザ・ルーツのアミール・“クエストラブ”・トンプソン。今回が監督初挑戦とは思えないほど、その手腕は鮮やかで自信に満ちている。
往々にしてドキュメンタリーではいわゆる識者たちが題材の重要性を大げさに語るが、『サマー・オブ・ソウル』は違う。音楽を主役に据え、修復によって新たな命を吹き込まれた映像に語らせる。
フェスティバルを発案した歌手のトニー・ローレンスら主催者はコーヒー大手マックスウェル・ハウスの協賛を取り付け、ニューヨーク市の支援も確保した。市の支援には、夏に頻発していた暴動や混乱を牽制する狙いもあった。