いま売り上げ好調なアパレルブランドは何が違うのか(栗野宏文)
「新しい価値観」に沿った商品はきちんと生き残る
この転換期にこそ「地球環境に配慮し、未来や次世代を考えた生活への変革」を実行すべきです。ファッション消費のキーワードは"トレンド"や"ラグジュアリー"から"持続可能な社会を実現するためには"という方向へと基軸が移ります。それが「新しい価値」です。
しかし、一方で全ての衣料品がオーガニック素材であったり、リサイクル素材であったり、生分解前提の素材でなければならない、というイデオロギー追従も必要ないと思います。前述の高単価なデザイン衣料を例にとっても「それが欲しい」「それが着たい」という強い意志の元に決定・購入されたものであれば、安易に捨てたり、着飽きたりはしないもの。これも僕自身や顧客や友人たちの肌感覚で理解できます。
ファッションは生産過程や素材の見直し、そして健全な販売期間や商品無廃棄を業界全体として目指すと共に、買い方や服との付き合いも"買う側の責任"として再考されるべきです。それは単なる節約意識ではなく、あるべき"充足感"や"自己実現"に繋がっていきます。
COVID-19禍は「誰もがこの世界の当事者であること、誰も無関係では居られないこと」を可視化し、実感させました。
僕自身は43年の洋服屋人生で「自分が責任を持てるかたちで社会に関わること、何時でも当事者意識でいること」というリアリティーが自分を動かし続けてきました。また、冒頭に挙げたように多種多様な若者たちとのコミュニケーションは僕の目を開き続けてくれます。
今年1月から3月まで、つまりCOVID-19拡大以前のパリ出張時に審査員として参加した新人コンテストや、同時期にフィレンツェで出会った学生などの世界の新人デザイナーたち。彼らのフレッシュな発想は"来るべき世界"を彼らの新しいリアリティーで感知したものでした。
アップサイクリング(廃棄された服や素材を他の形で再利用)が前提の服、アフリカやアジアの民族の歴史や文化をリスペクトした服、性を超えた服......。所謂トレンドでも既存のラグジュアリーでもない、それらを越えた未来の美意識や価値観が"服"になったものです。
いま、僕には「次の世界とファッションの価値観」が徐々にリアルに見え始めています。
ファッション業界の未来は明るくないといわれますが、僕はそうは思いません。
なぜなら、着ることは生きることだから。着ることは人間の尊厳にかかわることだから。
[筆者]
栗野宏文(くりの・ひろふみ)
1953年生まれ。ユナイテッドアローズ上級顧問クリエイティブ・ディレクション担当。和光大学卒業後、株式会社鈴屋に入社。Beamsを経て1989年ユナイテッドアローズ創設に参加。バイヤー、ディレクターとして80年代のパリ・コレから35年にわたって内外のファッション業界を俯瞰。政治経済・音楽・映画・アートから国内外情勢を投影した時代の潮流(ソーシャルストリーム)を捉えるマーケターとして、国内外で高く評価され、日本のファッション業界をドメスティックとインターナショナルな視点から俯瞰的に語ることができる数少ないファッション・ジャーナリスト。スーツにスニーカーのコーディネイトを先駆けた人物でもある。
『モード後の世界』(扶桑社)
栗野宏文 著
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