いま売り上げ好調なアパレルブランドは何が違うのか(栗野宏文)
いまは「自分に意味のあるもの」を考え直す価値観の変換点
COVID-19状況下、ヒトの生存さえも危ぶまれる危機に、薬品でも食料でもなく、実用品でもない "高級デザイン服"を何故買うのか? それは、ヒトが追い詰められ、自己の価値観の再考と熟考を迫られている状況だからこそ、と僕は思います。
コム デ ギャルソンやkolorを買う客層もまた生活の変更を余儀なくされた市民たちです。彼らも自己を見つめ、リセットし、取捨選択し、それでも"自分が着たい服を買う" のです。彼らは都心の高級レストランやバーからは足が遠のき、旅行も中止したかもしれません。自己予算を熟考した結果、それでも30万円のアウターを買うのは、それが "自分の人生に意味あるもの" だからです。
そもそもコム デ ギャルソン オム プリュスの"カラー・レジスタンス"は、閉塞感溢れる世界状況への抵抗が内包されたテーマです。それが"企画・制作"されたのはCOVID-19禍以前であるにもかかわらず、的確に"社会潮流"を予感したものである点に、デザイナー川久保玲の時代感の鋭さを感じざるを得ません。
一方、百貨店の中心顧客に支えられてきたナショナル・ブランドや新興富裕層の消費に支えられてきたラグジュアリーブランドには勢いがありません。前者は生活における衣料のプライオリティーが後退したり、百貨店自体の魅力や意味が減じたりした結果でしょうし、後者は"ラグジュアリー"という概念が、生死を直視せざるを得ないCOVID-19禍にあって"リアリティー"や"意味"を喪失しつつあるから、と分析しています。
COVID-19禍は近代以降の生活と価値観を大転換させる契機となっています。また、急速に現実化したリモートワークは仕事場と通勤の条件を根底から変えつつあり、ここでもファッション消費はネガティヴとポジティブ両方の影響下にあります。
通勤用の服が要らない。革靴を履く機会が少ない。女性は家で仕事する条件下では化粧品やバッグの必要性が後退したばかりでなく、マスク着用の常態化も化粧品消費に影響しています。一方でコミュニケーション・ツールのPC画面内でも映えるイヤリングは好調です。
例を挙げればキリがないほどに"今まで必要だったものが不要、あるいは変更"が起きています。"消費生活"そのものが転換期にあるのです。お金を使ったり、最新流行のものを手に入れたりすれば幸せになれる、という時代は終焉しました。生活者は社会との繋がりを今まで以上に意識するようになりました。
それはCOVID-19禍で"自分だけ良ければ良い"という概念も吹き飛んだからです。ウイルスは"個人"という意識以上に"世界"という概念を必然的に突き付けました。世界の困難、世界の資源、世界の環境......と。