いま売り上げ好調なアパレルブランドは何が違うのか(栗野宏文)
COVID-19禍で消費が縮小するなか、高単価の商品が売れている
約3ヶ月間のロックダウンが明けて、日本社会は6月から一応"通常営業"に戻りましたが、小売りが営業できなかった3ヶ月間は1年の前半で最も売り上げが大きい時期でもあったので、当然、販売機会をロスしました。
結果、在庫を抱えた多くの小売業は早期のセールという状況に。そこへ長梅雨や豪雨が重なり、梅雨が明けると猛暑続き......。感染者数が再び増加したこともあって、7月、8月の小売り市況もネガティヴで、大多数のファッション小売業や百貨店が昨年対比で7割以下の売り上げと公表。昨年まで活発だったインバウンド消費もゼロに近い。
この間、国内外の歴史ある企業やブランドが連続して倒産したり、経営危機に陥ったりしました。また、百貨店も売り上げ回復が困難な状況です。この現状はCOVID-19禍が始まって以降、多くの業界人が抱いた危機感が具体化したもの、と言えますが、根源的な問題が顕在化した結果でもあります。
そもそも百貨店やそれに向けたブランドは商品企画的にも販売体制的にも"旧態依然"過ぎた――と、指摘されても仕方がない状況だったのです。
"不特定多数"に向けた企画や"来店を前提とした売上目標"、それをCOVID-19はバッサリ切りました。COVID-19禍は、既存の価値観や消費傾向を破壊しリセットする機会となり、それまでの暮らしやお金の使い方を反省する機会ともなりました。
まず"生存"が最優先され、他者と"遭遇しない"ことが推奨され、また、社会全体の経済活動停滞や、結果としての劇的な構造変化が急速に具体化し体感されるなか、漫然とした消費など有り得ないのです。消費は"必要なもの"と"不要不急なもの"に二分化され、"ファッションどころではない"という空気が醸成されました。
では「ファッション消費に未来はないのか?」と言うと、そうではないと思います。
現場の例で言えば、一部の国産メンズ・ファッション・ブランドは売り上げ好調です。それも、高単価でデザイン的にも"攻めた"ものの動きが良い。具体的にはコム デ ギャルソン オム プリュスやkolorというブランド、その中でも高額品が売れています。
ブランドのシーズン・スタート日、所謂"立ち上がり"にはお客様が開店前に並びました。今季のコム デ ギャルソン オム プリュスは"カラー・レジスタンス"というテーマの元、様々な色・柄がミックスされたジャケットや複数のタータン・チェック生地をパッチワークしたパンツが人気です。またkolorでは3着のアウターを重ね着したかのような、複雑で職人的技巧のアイテムに注目が集まっています。
これらの服の小売価格は20万円から30万円以上、パッチワークのパンツも9万円くらいします。好景気な時期でさえ販売がたやすくないこれらの高単価のデザイナー商品が何故、COVID-19禍で景況も低迷し、人々の価値観が劇的に変化しつつあるタイミングで売れていくのでしょう。