太田光を変えた5冊──藤村、太宰からヴォネガットまで「笑い」の原点に哲学あり
すっと気持ちが軽くなるようなオチで、そういうものを作りたいって思った。太宰なんかは暗くなっちゃうけど、そうじゃなくて、人が読んで明るくなるような楽しいもの、だけどちゃんとそこに哲学があるようなものが書けたらなって。到底及ばないけどって、思った」
今はもう、悶々とすることはあまりない。ネタがウケないとか、いいネタができないな、など現実的な課題に向き合ったりはするが、「自分とは何か」というようなことはもう考えない。
「(立川)談志師匠がずっとそれを考え続けていて、お前もいずれこうなるぞって言われていたんだけど、とてもじゃないけど、こんなに悩んじゃ駄目だと思った。考えてもしょうがない」
最後に、太田に「携帯を持たない主義というのは本当か」と聞いた。本当だとしたら、なぜなのか。人とつながることが、嫌なのだろうか――。
太田は本当に携帯を持っていなかった。スマートフォンどころか、ガラケーの頃から1台も持ったことがないという。「だって面倒くさいじゃない。だいたいいつも仕事か家にいるかどちらかで、マネージャーがいるから、俺に連絡を取ろうとすれば必ず捕まる。だから必要ない。友達と遊びに行くこともないんで」
友達は「いないっちゃ、いない」と言うので、(相方の)田中さんとご飯に行ったりすることは?と恐る恐る聞くと、「行かなくてもしょっちゅう、ネタ作りで家にいるからね、あいつ」と苦笑する。「じゃあお友達みたいなもんですね」と言ってみたところ、「オトモダチっちゃあ、オトモダチかな」と、つぶやくような答えが返ってきた。太田光に、携帯は必要ない。その生き方にも、哲学を感じた。
※本記事は2020年8月11日/18日号「人生を変えた55冊」特集掲載の記事の拡大版です。
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